真の意味で顧客を理解できているか? プロダクト改善の落とし穴
電通マクロミルインサイトは、電通とマクロミルの合弁による総合マーケティングリサーチ会社だ。主に一般消費者の洞察を基に、国内外の多様な業種のクライアントに対してマーケティング活動や製品・サービスの開発を支援している。内藤氏は、外資系リサーチ会社や外資系広告会社でマーケティングリサーチとUXリサーチの経験を積んだ人物で、現在は同社のリサーチオペレーション部デザインリサーチグループに所属している。
内藤氏はまず、顧客の成長プロセスについて説明した。顧客は、最初は製品やサービスの認知や興味喚起によって「見込み客」となり、試用や競合比較を経て「顧客」となる。そして、その製品やサービスを繰り返し使ってくれる「リピーター」へ進み、最終的にはその製品やサービスだけでなく、その企業に対して愛着を抱く「ロイヤルカスタマー」と成長する。このように、顧客が成長していく過程で満足度や利用頻度も自然と上がっていく。
顧客の成長を促す具体的な施策として、まず「見込み客」から「顧客」にするためには、認知度を高め、販促キャンペーンなどを通じて試しに使ってもらうことなどが挙げられる。その次に、UX(ユーザーエクスペリエンス)の向上を図り、使ってみたら「これは良い」という印象を強めて「リピーター」にする。最終的にはCX(顧客体験)の向上により、企業が提供するサービス全体への満足度を高めて「ロイヤルカスタマー」に至る形だ。
内藤氏は、この講演では「顧客」から「リピーター」へと発展させる部分、つまり「UXの向上」について焦点を絞って解説するとし、その取り組みで生じるよくある課題と解決策を紹介した。
まず内藤氏は、こんなことはないかと聴講者へ問いかけた。
- 「自信を持って開発したWebサイトやアプリなのに、思ったより売れなかった」
- 「顧客の声を反映して改善したつもりが、思ったより評価が上がらなかった」
これらの問題が当てはまるなら、「このような場合、顧客やユーザーの理解が真の意味でできていないのでは? つまり、顧客やユーザーの課題に寄り添ったプロダクトやサービスが開発できていないのではないか」と、内藤氏は語った。
続いて、よくある調査計画の例として「ECサイトのUI改善」を挙げた。このケースの課題として考えられるのは、「認知度はある程度高いが、期待したほど売上が伸びていない」「使いづらいという口コミは少ないものの、初回購入者が少ない」「リピート購入者は比較的多いが初回購入者が少ない」といったものだ。
課題発見の手法として、よく行われるのは「ログデータの分析」で、流入元や滞在時間、離脱率、カート放棄率などを調べ、どこに課題があるのかを探る。内藤氏は、この調査は間違いではないとしながらも、「問題がある箇所は想定されるが、そこに至る状況や離脱背景が不明だったり、原因の特定には至らなかったりすることが多い」と指摘した。
一方で、サイトの総合評価や満足度を調べるために、「ユーザーアンケート」を行うこともある。使いやすさなどについて10点満点で何点かを尋ねることが多いが、回答者は必ずしもアンケート時にそのECサイトを実際に使いながら答えているわけではない。そのため、「よく分からないけど6点でいいか」といったあいまいな回答をされることもあり、評価の詳細な理由がはっきりと分からないことがある。自由記述で理由を尋ねられるものの字数制限などもあり、具体的な回答を期待通りに得るのは難しい。
内藤氏は「数量的、表面的な実態を示すことはできても、サイトの利用文脈がどうしても不明確になってしまう点が課題だ」と述べ、このような調査だけでは顧客を理解するには不十分だと強調した。