はじめに
プロダクトマネージャー(PM)は、急速に変化する市場環境や競争の激化など、さまざまな課題に日々直面しています。特に、新規プロダクトの開発や既存プロダクトの改善において、ユーザーニーズを的確に把握し、効果的な解決策を見いだすことが求められます。このような背景のもと、プロダクトディスカバリーの実践事例を共有し、PMのスキルアップを図るイベント「プロダクトマネージャーLT Night ~プロダクトディスカバリー事例共有~」が開催されました。
本記事では、イベントで共有された知見をもとに、効果的なプロダクトディスカバリーの実践に向けたポイントを紹介します。特に、ユーザーインタビューの効果的な実施方法、仮説検証の高速化手法など、明日からのプロダクト開発に活かせる具体的な手法に焦点を当てています。
LT1:プロダクトディスカバリーのためのユーザーインタビュー200本ノックの学び
概要
- 登壇者:株式会社はてな 米山弘恭氏
プロダクトディスカバリーの基礎となるユーザーインタビューについて、200回以上の実践から得られた学びが共有されました。新規事業チームが1年間で200件を超えるインタビューを行い、サービスを事業化するまでの過程で得た具体的な知見が紹介されました。
半構造化インタビューの実践
半構造化インタビューは、プロダクトディスカバリーにおいて重要な手法として紹介されました。この手法の主な利点は以下のとおりです。
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堅牢性
- 「聞きたいことを聞けなかった」「質問者が欲しい回答に誘導してしまった」といった問題を防止できる
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冗長性
- PMだけでなく、エンジニアやデザイナーなど、チーム全員がインタビューを実施できるようになる
実践のポイントとして、以下が挙げられました。
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質問項目と時間配分を事前に決める
- 例えば、60分のインタビューの場合、導入5分、本題45分、まとめ10分といった具合に細かく設計する
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適切な切り出し方を用意する
- 「〇〇について教えてください」という漠然とした質問ではなく、「最近、〇〇をする際に困ったことはありますか?」のように具体的な状況を聞き出す質問を準備する
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掘り下げパターンを集める
- 「なぜそう思ったのですか?」「具体的にはどのような場面でしょうか?」といった掘り下げ質問のパターンを用意し、チーム内で共有する
また、インタビューの実施体制として、ファシリテーター+アシスタント2名体制が推奨されました。アシスタントがコパイロットとレビュアーの役割を担うことで、より効果的なインタビューが可能になります。具体的には、アシスタントがリアルタイムで「️✅聞けた」「️❓掘り下げ」「️🔥聞き漏らし」などの絵文字を使ってフィードバックを行い、ファシリテーターをサポートする方法が紹介されました。
親和図法の活用
インタビューで得られた情報の分析には、親和図法の活用が推奨されました。親和図法を用いる利点は以下のとおりです。
- 思考と対話の限界を突破できる
- インタビュイーの課題認識や言語化の難しさを克服できる
- インタビュアー側のバイアスを軽減できる
親和図法の実践では、以下のポイントが強調されました。
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データの理解にこだわる
- インタビューの録画を全員で観る。発話録を徹底的に読み込む。例えば、1時間のインタビューに対して3時間以上かけて分析することも珍しくありません。
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データの準備は機械に頼る
- 生成AIを活用し、前工程は機械に任せ、後工程は人間が担当する。具体的には、AIによる書き起こしや初期的な分類を行い、人間はその結果を精査し深い洞察を得ることに集中します。
実践から得られた成果と学び
この方法論を用いた新規事業の立ち上げ事例が紹介されました。当初は反応が薄かったものの、約4か月後のピボットを経て、ユーザーからの反応が劇的に変化しました。具体的には、以下のような成果が得られました。
- プロダクトのコンセプトピッチに対して、ユーザーから自発的な歓声が上がるようになった
- Figmaでのプロトタイプデモンストレーションに対して、拍手が起こるようになった
- 製品リリース前に複数の契約希望が寄せられた
これらの成果は、地道なインタビューと分析の積み重ねによって得られたものです。プロダクトディスカバリーの実践において、「インタビューも質的分析も必殺技ではなく、良い手順さえ作れば日常的に扱える」という点が強調されました。
総括
このLTでは、半構造化インタビューと親和図法を活用した体系的なユーザーインタビュー手法が紹介されました。200回以上のインタビュー実践から得られた知見は、インタビューの質を高め、得られた情報を効果的に分析するための具体的な方法を提供しています。この手法を採用することで、プロダクトディスカバリーの初期段階での不確実性を大幅に減らし、より確かな根拠に基づいた意思決定が可能になると言えるでしょう。