デザインデータの共有に課題、プロダクトの成長で管理の複雑化も
「みんなの銀行」は、2021年5月にサービス提供を開始した日本初のデジタルバンクだ。スマートフォンだけでいつでも口座を開設でき、ATMの入出金もアプリだけで完結。口座開設時に同時発行されるバーチャルデビットカードで買い物ができるほか、目的別にお金を整理できる「Box(貯蓄預金)」機能、他の銀行口座やクレジットカードなどを連携させお金の動きをまとめて管理できる「Record」など、デジタルの強みを活かしたサービスを提供し、デジタルネイティブ世代を中心にユーザーから高く評価されている。
今回お話をきいた中野岳(なかのがく)さんは、グラフィックデザイナーからキャリアをスタートし、Webデザインやシステム、アプリなどのデザインを手掛けた後、2021年3月にみんなの銀行へジョイン。現在はプロダクトデザイナーとして、「みんなの銀行」のサービスUI設計およびデザインシステムの構築を担っている。Figmaへの移行プロジェクトは、2022年から2023年にかけて中野さんの主導で行われたものだ。
WebサイトやUIデザインの世界ではこれまでにもさまざまなツールが誕生し、技術や環境の変化に応じた移行はデザイナーを悩ませてきた。現に、移行したくてもコストやリスクを考えて踏み切れずにいる方も多いだろう。そうした方々に向け、中野さんは冒頭で次のように述べた。
「過去にご経験のある方はお分かりだと思いますが、ツールの移行はとても大変なことです。今回はスマートな移行テクニックというよりは、泥臭いお話になります。ただ、Figmaへの移行はそれだけの価値があると思います。みんなの銀行がどう考え、どのように進めたのかまでお話しさせていただきたいと思います」(中野さん)
みんなの銀行がツールの移行を決断した背景には何があったのだろうか。中野さんは大きく2つの理由を挙げた。
1つは、以前のツール環境ではデザインファイルの共有に工数がかかっていたことだ。同社では毎週末、クラウド上にある最新版ファイルをローカルに保存した上で開発メンバーに配布していた。しかし、全員がツールのライセンスを持っているわけではない。ライセンスを持たない開発者およびその他のメンバーには、すべての画面のブラウザプレビューリンクと書き出した画像(PNG)を配布。さらに更新の差分をExcelで一覧表でまとめ、全員に配布していた。
この方法は手間がかかり、ミスが起きることもあったという。また、コメントがしにくい、更新部分が分かりにくいなど、情報共有がスムーズにできないことも課題だった。
もう一つは、必要なファイルを探しにくい状態になっていたことだ。サービスの成長や関係者数の増加につれ、徐々にツールのファイルブラウザがプロダクトの管理方針にそぐわなくなっていた。また、ファイルの断片化と属人化がこの問題を複雑にしていた。サービスの画面数が増えたことで1つのファイルに収めることができなくなり、プロジェクトごとに別ファイルが作成されるようになっていたのだ。管理が複雑化し先祖返りが起きることもあったという。
この2つに加え、Figma導入により新たに期待できる利点もあったという。
「Figmaの機能ならコンポーネントの状態管理が以前のツール以上に効率的になると考えました。開発者もコードに起こしやすい形で状態管理を把握できます。今なら新しく追加されたバリアブル機能など使ってさらにパワフルなコンポーネント集がつくれるのではないかと思います」(中野さん)