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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第3回。オフラインとしては初開催です。

ProductZine Day 2024 Summer

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翔泳社 新刊紹介(AD)

リサーチ活動に組織やメンバーを巻き込むために、主語を切り替えてユーザー視点の影響度を言語化しよう

 ユーザーや顧客を理解するためのUXリサーチは、事業成長はもちろん、プロダクトやサービスの開発・改善にも不可欠です。しかし、チームやマネージャー、経営層にさえその重要性をわかってもらえないと感じている人は少なくありません。いったいどうすればUXリサーチを事業に活かせるようになるのか、そもそもどうすればリサーチを実施する体制を作れるのか。今回は書籍『UXリサーチの活かし方』(翔泳社)から、組織やメンバーをリサーチ活動に巻き込む考え方を紹介します。

 本記事は『UXリサーチの活かし方 ユーザーの声を意思決定につなげるためにできること』の「第1章 自分・組織・事業の3つの主語を切り替える」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。

自分・組織・事業の3つの主語を切り替える

  • 自分単位
  • 組織・チーム(メンバー)単位
  • 事業単位

 この3つの単位をそれぞれ主語にしてユーザー視点の影響度合いを言語化できると、実際にリサーチ活動を進めるイメージがつきやすくなったり、周りに興味関心を持ってもらえたりするなど、強力な武器になります。

 つまり、「組織を味方につけた、リサーチ活動の巻き込み方」が見えてくるのです。

 逆に、視点の切り替えが不十分だと、何がなんでもリサーチ!といった近視眼的な捉え方になってしまいがちです。こうなると、相手に伝わりづらく、周囲を巻き込んで進めるのが難しくなってしまいます。

 言語化するだけではなく、実際にやってみて形にして、小さくとも成果としてわかりやすく見せることで理解してもらえたり、興味を示してもらえたりするケースもあることを添えておきます。

一番難しいのは「事業」を主語にすること

 整理する上で、特に頭を悩ませるのが、事業単位です。組織によっては、自分の権限でアクセスできる情報に限りがあり、全容がつかみにくいこともあるでしょう。情報が少ないとイメージが描きにくくなります。

 また、目の前の問題から解決に動こうとすると、木を見て森を見ずといった状態になりがちで、自分にとっては課題だと思っていたことが、実はさほど重要ではなかったという場合もあり得ます。

 事業単位の文脈で言語化する際、経営陣がどのようにユーザー理解を捉えているかも重要な要素です。これまでリサーチ活動に取り組んでいなかった組織の場合、特に気にかける必要があります。

 組織によっては、経営陣との距離が遠い場合もあると思うので、自分が手の届く範囲、動かせそうな範囲にいる意思決定者がどう捉えているか、と読み替えていただいても良いでしょう。

 「リサーチする意味って何?」といった発言が出てくる場合、その背景には2つの状況があるように思います。

  • 実際に必要ない
  • 必要はあるが、伝わる説明になっていない

 前者は、すでに検討されており、必要ないとわかっている状況です。自分自身は必要だと思っているが、事業視点で捉えると重要ではない。「別に今やらなくてもいい」と判断されるようなケースとも言えます。

 この場合、お互いの考えをすり合わせながら、ベストな着地点を探るコミュニケーションをとっていく流れになると思いますが、事業上、注力すべき方向性が定まっていて、リサーチを組み込んだとしても影響力が薄い、または組み込むことによって進行に後れをとるといった場合は、やらない判断をする方が良いでしょう。

 この場合は、今組織や事業に必要とされ、自分に期待されている役割を全うすることが、遠回りのようで近道になります。先ほどのプレゼントの例でお伝えしたように、無理やり進めても、誰も嬉しくない可能性が高いのです(状況を捉えた上でリサーチ成果を見える形にして伝えるという選択肢もあり、一概にNGとは言えませんが……)。

 一方で後者は、必要性が認知されていない、または必要性について納得を得られていない状況です。

 説明が不足していて理解が得られない時は、リサーチをすることで何を達成したいのか、業務にどうつながるかについて、ユーザー体験だけが強調され、ビジネス面の考慮がなされていないことが往々にしてあります。「あったらなおいい」という説明に聞こえてしまうようなケースです。

 経営陣や意思決定者が見ている景色にはリサーチの他にも無数のアプローチが存在しています。その中で最適なものを選ぶ場合、できるだけ成功確率が高い選択肢を選びたいものです。

 意思決定の内容によりますが、これまで検討したことがない領域などイメージがつきにくいものや、人的資本や資金などを大きく投資する領域の場合は難度が高いように思います。

 リサーチには、ユーザー視点を提供することで意思決定の不確実性を下げるという良さがあります。例えば、こんなシーンで効果を発揮できます。

  • 自社のユーザーがどういった点を理由に使い続けてくれているのか、競合サービスと比べてどのような点が価値なのかなど視野を広げる
  • 想定していなかった使い方をするユーザーを深く知ることで、新たな事業領域を検討できる
  • ユーザーを知ることにより、事業の可能性を広げたり、副次的にチームの目線が揃い、開発がしやすくなったりする
  • データ基盤の整備や定性データの収集など、ユーザー理解を推進できる環境整備をしておくことで、今後の事業にとって良い判断ができるようになる

 リサーチがもたらす良い効果の一方で、かかるコストや期間についても同時に考え、事業が抱えている課題や目的に対して、どういった進め方が適切かが議論の場に出ていなければなりません

 みなさんなら、次の問いを明らかにするため、どんなことを行いますか?

  • リサーチが敬遠される背景はどこから来たのか
  • 今の事業・サービスはなぜユーザーに選ばれているのか
  • 今このタイミングで組織やチームにとってリサーチが役に立ちそうか
  • リサーチを実施しても良い場合、現実的に工数や予算がとれそうか
  • リサーチを実施することで達成したい状態は何か

 事業が、なぜ必要とされ、選ばれているのか。その要因をさらに強めるには、どんなアプローチが必要なのか。関連する情報を集め、丁寧に解きほぐすことで、事業としてどこに投資すべきかという輪郭が見えてきて、ユーザー視点と事業とのつながりが明確になっていきます。

事業視点・組織視点とリサーチのつなげ方

 事業視点・組織視点の存在を意識できたら、現場でどう立ち回るとうまくリサーチが回っていくのか。実際の事例をご紹介します。現場でのコミュニケーションの仕方や、提案の流れなどに注目して見ていきましょう。

 ご紹介するのは、2017年当時、インターネットメディアの運営会社、株式会社リブセンスにデータ分析グループのマネージャーとして所属していた新保直樹さん(現プレイデータ株式会社代表取締役)の事例です。

 求職者向けの転職関連サービスを複数運営しているリブセンス社は、これまでのWeb マーケティングを中心としたサービスの成長に限界が見え始めている状況でした。

 新保さんが所属する分析グループでは、定量的なデータ分析によるサービスの改善をしていました。レコメンドエンジンや検索結果の最適化といった施策を進めていたのですが、定量的なデータの分析だけで解決できる問題は限定的だと感じていました。そうした中で、「自分の専門領域であるデータと何かを掛け合わせて、事業課題を解決できないものか……」と考えるようになったのです。

 そこで、今のプロダクトがどんなユーザーに使われているか定性データを取得することで、プロダクトの改善施策が出しやすくなるのではないか、と考えました。競争優位性を高めるためのコア機能の開発やピボットを、定性データによって支援するのです。

 定量と定性、データの種類は違いますが、考え方が似ていることに着目しました。定量的なデータ分析とUXリサーチは、それぞれ活かしどころが違います。今の事業フェーズでは、課題が発生している背景や構造、文脈を把握することが、より良い提案につながると考えたのです。

 そのため、新保さんは、当時出版されていたUX関連の書籍を片っ端から読み、同時にUXを専門的に学べる大学院へ通い、知識を身につけていきました。

 ちょうどその時、周りでも「顧客へインタビューしていろいろ聞けるらしいから、リサーチに取り組んでみたいけど余裕がないんだよね」とか「専門外だし、スキルがないからすぐにはできないよね」といったような、「リサーチが大事だと薄々わかってはいるものの、専門外だしできないかも」という声が聞かれました。

 リサーチに取り組みたい人が周りにいると、なぜわかったのでしょうか。それは、普段の新保さんの行動にあります。

 当時、会社に所属して3年が経つ頃で、自分と同じプロジェクトに入っていた人や同期がチームリーダーになったり、マネージャーになったりしていました。新保さん自身も、横断部門のマネージャーに就いていました。

 ランチに行く時や普段の立ち話など、事業がどうなるのか、自分たちに何ができるかなど仕事雑談をする中で、リサーチの話題も出ていたのをキャッチしていました。これまでのつながりで気軽に話している人たちが事業責任者になっているなど、意思決定権を持っているレイヤーに話しかけやすかったのも大きかったと言います。

 また、新保さんのデータ分析チームは、組織の中で横断的に動くようなチームだったので、日常的にマネージャークラスや部長クラスに話しかけ、事業状況を把握した上で適切な提案ができるように情報収集していました。今はどこで困っているか、データサイエンスを活かして解決策を提案できないかを考えていたのです。

 この動きがないと、社内受託のような形になってしまうため、日頃の業務でも、他のチームの様子を気にかけるようにしていました。

 継続的なヒアリングを通じて事業状況が把握できていたこと、これまでの勝ちパターンの限界が見え始めていて、新たな価値創出が必要だという機運が高まっていたことを追い風に、事業に今必要なのが「リサーチ活動だ」と結論づけたのです。

 ちなみに、事業が順風満帆であれば、UXリサーチはそもそも必要ないと自分も判断したし、たとえ提案してもうまくいかなかっただろう、と新保さんは振り返ります。

 なぜなら、「自分で動かせないパラメータが多かった」からです。

 事業構造や組織を取り巻く環境を見て、うまくいっている施策がある時に、わざわざUXリサーチにコストをかける必要はない、と判断されそうだと思ったようです。

 社内のPMを誘ってみたところ、リサーチができたらいいな、ともともと感じていたらしくお互いの思惑が一致したので、まずは小規模のリサーチプロジェクトを業務外活動として始めました

 さらに、取り組みに興味を持ってくれたデザイナーなど、別職種の人にも関わってもらい、小さな成功体験を作っていきました。

 この時、ある程度社内の人脈もあり、組織のキーマンも知っている、自分からコミュニケーションもとれる、といった状況や、自分にもこれまで組織で蓄積してきた信頼があり、「新保さんがやるなら、一緒にやりたい」という人がいたことも追い風になりました。

 リサーチプロジェクトを進める時に大事なのは、自分の裁量で成功体験を積めそうな範囲を見極めること、と新保さんは言います。

 影響範囲を広げたい場合は、どのレイヤーの誰を動かすべきかが大事になります。どこまで影響範囲を出したいかについて、アクションをする場所によって影響範囲を見積もるのが大事なのです。

 初めは、事業活動に直接影響しない課外活動から始め、その活動が事業本体にも活かせそうだという実績を少しずつ積み上げていきました。

 途中で、リサーチの影響範囲である組織のキーマンと会話し、共通認識を持ってリサーチ活動を増やしていきました。最終的には、UXリサーチを主軸に組織の中で活動するようになったのです。

 これまでの経験を振り返って、新保さんは「リサーチの能力が突出しているだけではリサーチプロジェクトを動かすのは難しく、事業を理解して今やるべきことを整理できるスキルが大事だ」と言います。また、新しいことへの挑戦や未経験の職種への挑戦を応援する社風があったことも大きかったと言います。

 この事例には、事業視点と組織視点が出てきました。いくつかピックアップしてみましょう。

事業視点

  • サービスの成長率の鈍化から、プロダクトで競争優位性を作る方向性を検討
  • 今の事業フェーズでは、課題が発生している背景、構造の特定、文脈を把握することが、より良い提案につながる

➡ユーザーの定性データを取得することが適切と判断

組織視点

  • 日常的に事業状況を把握するため、マネージャークラスや部長クラスに話しかけ、適切な提案ができるように情報収集
  • ランチに行く時や普段の立ち話で、リサーチの話題をキャッチ
  • 社内の人脈もあり、組織のキーマンも知っている

➡自分から直接コミュニケーションをとる

 新保さんの事例のように、組織や事業の大きな流れの中で、ユーザー視点がどう配置されるとその流れをより強く推し進められそうかを自分の中で整理し、その効果を最大限に発揮できるような進め方を考えられると、伝わる説明にグッと近づきます。

UXリサーチの活かし方 ユーザーの声を意思決定につなげるためにできること

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UXリサーチの活かし方
ユーザーの声を意思決定につなげるためにできること

著者:瀧本はろか
発売日:2024年11月11日(月)
定価:2,200円(本体2,000円+税10%)

本書について

本書では、UXリサーチを専門とする著者が、こうした壁の乗り越え方について考えていきます。多忙なメンバーの巻き込み方から、リサーチの大切さの伝え方、目指すゴールの設定、ほしい情報がすぐ取り出せるようなリサーチ結果のデータベース化まで、具体的に解説します。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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