より精緻なKPIポートフォリオ管理が可能に
事業本部制へとシフトし、それぞれの事業に対する解像度が上がったことで、より精緻なKPIポートフォリオの管理が可能になりました。新機能やオプション開発による期待獲得額を具体的な数値で見積もることができるようになり、それに応じたリソースの重み付けが可能になりました。
各事業部門の目標数値は、会社全体の方向性と戦略に基づいて設定され、それをさらに詳細なKPIへと分解しています。1事業部ごとにプロダクト数が絞られ、必要な機能が1つの部門に集約されたことで、より高い解像度と網羅性を実現しています。
例えば、従来のセールス組織では単純な獲得社数のみを重視しがちでしたが、現在はプロダクトごとの新規獲得、顧客のニーズを深掘りした機能開発や既存顧客からのアップセルなど、事業成長に必要な要素を網羅的に把握し、高い解像度で管理できるようになっています。
すべての指標は、時期と数値目標を明確にした定量的な形で設定されています。つまり、各施策について「何月にいくら」「ここまでにXXを実現する」という具体的な目標を定め、それに基づいて経営資源の配分を決定しています。これにより、事業目標の達成に向けて、より戦略的なリソース配分が可能になりました。
柔軟な施策をスピーディーに展開可能に
イタンジは月額課金型のストックビジネスを展開しており、新規で獲得した顧客からは契約いただいた時点からの継続的な収益が見込めます。そのため、事業価値を最大化する上では早期の顧客獲得が重要となります。今回の組織改革では、早期の顧客獲得につながる施策を柔軟に実行できるようになったことが成果だと考えています。
例えば「募集支援事業本部」での取り組みでは、事業本部制への移行後、最初の3か月間で特定のオプションサービスの販売に注力するという戦略的な判断を行いました。
この施策が実行できた背景には、まさに事業本部制の導入があります。従来の13プロダクトを横断的に扱っていた体制では、これほど明確なフォーカスを持った戦略を短期間に実行することは難しかったのですが、事業本部ごとに独立性を持たせたことで、各事業がより大胆に施策を打ち出せるようになったのです。
その結果、従来の3倍のペースで売り上げを伸ばすことができました。これは他の施策を一時的に抑制する代わりに、特定のサービスに経営資源を集中投下した結果であり、狙ったプロダクトの早期普及と月額収益の早期確立という目標に向けて前進できた事例です。
一方で、事業本部制への移行に伴う課題も明らかになっています。最大の懸念は「事業間のコミュニケーションの断絶」です。各事業本部が独立して動くため、どうしても横の連携が希薄になりがちなのです。これを防ぐために、新たにCoE(センターオブエクセレンス)という横串の機能を担う組織を立ち上げました。これは、経営企画部門の一部として、全事業の戦略を統合し、全社レベルでの方向性を維持する役割を担っており、エンジニアリング部門においても同じような機能を果たす組織を導入しています。
このように、事業本部制の導入により個別の事業がより明確なKPIを持ち、それに集中できる環境を作ることができました。次回はKPIで設定した数値を管理するための可視化の手法と、目標を達成するためのPDCAサイクルの回し方について解説します。