なぜ今「図」が必要なのか──認識ギャップを埋めるコミュニケーション手段
ヌーラボが提唱する「チームワークマネジメント」は、メンバー一人ひとりがリーダーシップを発揮しながら、チームとして最大の成果を上げることを目指すアプローチである。必要な要素として挙げられているのが、「目標の共有」「役割の明確化」「分散型リーダーシップ」「コミュニケーションの設計」「心理的安全性の確保」の5つだ。これらは原田氏への取材記事で詳しく紹介した。
今回焦点を当てるのは、これら5つの要素を支える「共通言語」としての「図」の力である。特にプロダクト開発の現場では、図を有効活用することが、これらの要素を満たすための重要な鍵となる。
プロダクト開発に関わるチームは、エンジニア、デザイナー、ビジネスサイドなど多様な職能で構成されている。加えて、リモートワークや副業・業務委託の普及により、初めて顔を合わせるメンバーが短期間で成果を出さなければならない場面も増えている。こうしたチームに共通するのは、「誰がどの情報を、どの前提で持っているか」が一致しにくいという課題だ。
渡部氏は「『話が通じない』原因の多くは、言葉以前に『何を前提にしているか』が共有されていないことです」と指摘する。業務上のやりとりは、文章や口頭だけで進めると、意図や背景が抜け落ちてしまうことが多い。そこに図を用いることで、情報の構造や関係を視覚的に共有できるようになる。

かつては会議室のホワイトボードを囲んで議論するのが一般的だったが、現在は場所も組織も異なる多様な人材が関与するのが当たり前となり、図の共有そのものが難しくなっている。そこで活用されているのが、ビデオ会議上の画面共有だ。特にリモートワーク下では、「同じ画面を見ながら話す」だけで認識が大きくそろう場面が多い。図があることで、どこに課題があるのか、どこが未定義なのかといった点が可視化され、意見の出しやすさや理解度の深まりにつながっている。これは単なる業務効率の話ではなく、「コミュニケーションの設計」や「心理的安全性の確保」にもつながる要素だ。
一方で、ホワイトボードの画面をカメラで写しながら会議を進めると、視認性や双方向性に乏しいという課題もあった。そこで近年では、オンライン作図ツールを使ってリアルタイムに図を共有・編集するスタイルが広がりつつある。「オンライン作図ツールの機能を用いて、自分の意見を伝えやすくなる──そんな人は少なくありません」と渡部氏は語る。図は、意見を持ちづらい・出しづらいメンバーが「巻き込まれる側」から「巻き込む側」に回るきっかけにもなるのだ。