「生きる」デザインシステムの適用範囲

続いてアフラックのデザインシステムの適用範囲について説明があった。
一般的なデザインシステムは、公式サイトやアプリへの適用が中心だ。しかし、アフラックのデザインシステムは、業務システムにまでその範囲を拡大している。シニア・エクスペリエンスデザイナーの正源司さんは、「業務システムが使いにくいのは仕方がないという諦めを変えていきたかった」と話す。
「業務システムのユーザビリティが改善されれば、生産性が向上し、その他の業務により多くのリソースを割けるようになります」(正源司さん)
大規模プロジェクトとの協業

こうした業務システムへの適用を後押ししたのが、2023年に始動した「プロジェクトZERO」だ。「保険会社をゼロから作る」という発想のもと、保険契約管理業務のデジタル化・自動化を目指すこの大規模プロジェクトにもデザインシステムの適用を積極的に推進した。
もちろん、一般のお客様が閲覧する公式サイトへの適用も進めている。2025年は公式サイトの多くのページについて、デザインシステムを適用したデザインにリニューアルしていく方針だ。また、デザインシステムをCMSのテンプレートに適用することで、サイト全体への自動適用についても視野に入れている。
デザインシステムの「浸透」を加速させる施策

次に、デザインシステムを社内で活用してもらうための浸透施策について、正源司さんはこれを「デザインシステムの布教活動」と表現し、「存在を知ってもらわなければ活用されず、『生きた』デザインシステムにならない」と強調する。その方針のもと、社内におけるデザインシステムの認知を広めるため、さまざまな施策に取り組んできた。
2024年5月のリリース時には全社説明会だけでなく、開発部門などへ個別に訪問し、デザインシステムの活用による開発業務の効率化など、そのメリットについて丁寧に説明した。また、一般社員が興味を持つようなデザインに関する幅広い社内セミナーを開催し、その中でデザインシステムを紹介し、その重要性を訴えた。
社外PRとガバナンス強化による浸透拡大
社外へのPR活動も積極的に行っている。外部発信は保険業界におけるプレゼンスを高める効果はもちろん、ニュースメディアに取り上げられることにより、社内での認知拡大にもつながる。実際、イベントに登壇することを知った広報から声がかかり、動画の社内報「アフラックウィークリーニュース」にも取り上げられたそうだ。
しかし、社内外へのPRに積極的に取り組んだとしても、これまでの慣習を変えるのは容易ではない。そこで、社内の開発ガバナンスを修正し、開発プロセスにデザインシステムに準拠していることを確認するプロセスを組み込んだ。このようなトップダウンでの適用を進めることによって、デザインシステムの正当性を高める狙いだ。ただし、「どこまで適応するかは、プロジェクトごとの実情に合わせた柔軟な対応をすることが大切」と付け加える。
「実は、弊社ではワイヤーフレームなどの設計資料をOffice製品などを使って作成している方も多いです。これをいきなり廃止して、『Figmaを使ってください』と求めるのは現実的ではありません。そこで、まずはこれまで使用しているツールにFigmaのデザインパーツを貼り付けて画面設計を行うといったような、段階的で柔軟なアプローチも取り入れています」(正源司さん)
経営層の理解を得るための戦略

ところで、経営層の理解を得ることは、デザインシステムを浸透させるためのガバナンス強化や、プロジェクトへの投資を継続していくためにも不可欠だ。しかし、これまでそれほどデザインに注目してこなかった金融業界では、その重要性が理解されないことも多い。だからこそ、アフラックでは経営層への伝え方にもさまざまな工夫を凝らしてきたという。
その一つが、デザインシステムのROI(投資対効果)を明確にすることだった。例えば、デザインシステムを先行導入したプロジェクトから寄せられた「リードタイムを10%削減できた」という実績などを報告。デザインシステムの効果の定量化を図っている。
また、経営層に合わせた言葉によるアピールも重要だという。例えば、単に「デザイン改善」というのではなく「開発業務の効率化によるコスト削減」というメッセージにすることで、経営層に「響く」表現を意識することで理解が得やすくなったという。