はじめに
プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー不在のスタートアップである株式会社NoSchool(以下、NoSchool)において、エンジニアにどういった動き方を求めているか、その水準や理由と、実際の課題を解説します。
プロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャーといったポジションが不在でも、役割そのものが不要というわけではありません。NoSchoolではエンジニアチーム一人ひとりが、部分的にプロジェクトマネージャーないしプロダクトマネージャー相当の役割を背負って個々のプロジェクトに臨みます。
本記事を通して、NoSchoolと似たような境遇のチームで働くエンジニアの方はもちろん、将来的にプロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーなどを目指しているエンジニアの方にも、明日から視座をちょっと変えて日々のプロジェクトに取り組めるような知見が提供できれば幸いです。
NoSchoolの組織体制
本論に入る前に、NoSchoolの組織体制について説明します。
NoSchoolは2020年から「オンライン家庭教師マナリンク」というWebサービスを運営するスタートアップ企業で、本記事の執筆時点(2024年末)では全社員が10名ほど、内CTOを含むプロダクトチームが5名という小規模体制で構成されています。
珍しい点として、プロダクトチームは全員Webエンジニアで、専任のプロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャー、デザイナーも所属していません。
これは人件費が限られるスタートアップ企業において、プロダクトチームを全員エンジニアにすることで、早くから大規模なソフトウェアを開発できるメリットを享受する意思決定です。CTOである私もマネジメント工数をできるだけ抑え、毎日のようにゴリゴリとコードを書いています。この意思決定により、NoSchoolはチーム5名にも関わらず、オンライン家庭教師の登録、集客から売上管理、授業や指導データの管理、指導料の入金までを開発・運用できています。
そこで本記事では開発速度や開発規模面でのメリットを享受しつつも、「いかにプロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー不在によるデメリットを小さくしているか」という工夫をお話します。
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NoSchoolの組織体制とプロジェクトにおける責務がイメージできる図を示しました。各エンジニアがフルスタックに開発できることを前提に、プロジェクトごとに柔軟にデザインやマネジメントに相当する業務を行っていることがイメージいただけると思います。
プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー不在の体制の課題と工夫(1)
それではさっそくプロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー不在の体制における課題や、そこに向き合う工夫をトピック別にお話します。
不確実性を先につぶすスキルに個人差がある
1つ目は「不確実性をつぶすスキル」の個人差です。
プロジェクトマネージャーが不在ですと、各エンジニアが自分が開発するプロジェクトの進め方をほぼすべて自分で決定します。プロジェクト全体を冷静に俯瞰できるエンジニアであれば、全体を見てもっとも技術的にリスクがある箇所から着手しますが、一方で無意識の内に「自分が開発できそう」なところから着手してしまうことも少なくありません。
こういったリスクを防ぐために、NoSchoolでは次のような工夫をしています。
- UIを新規で開発する施策では、数日ごとに細かくCEO/CSを交えてユーザー体験視点でチェックする
- 「調査しないと分かりません」とエンジニアが言いたいときでも、事前にフローチャートを書いて「調査の結果がAだったらこうする」「Bだったらこうする」などと、できるだけ想定してもらう
- 一つひとつの開発フローをお役所仕事みたいにしない。ソースレビュー1つとっても、「不安なのでダブルチェックしてほしいレビュー」といったニュアンスを伝えて、レビューごとに何を承認するかを考えるようにする
特に私が繰り返し伝えていることは「分からないこと」に向き合う勇気です。「分からないこと」を見つけ、言語化することで、ネクストステップを冷静に考え、周囲に協力を依頼したり、周囲も助けやすくなったりします。