時差と言語の壁が生む「一発で伝える」コミュニケーション課題
木村氏は現在、Cacooの開発チームでエンジニア兼マネージャーとして、バックエンド開発とピープルマネジメント、海外拠点との調整を担当している。国内には8名のエンジニア(フロントエンド、バックエンド、SRE)、海外拠点には3〜4名のエンジニアと全デザイナーが配置された国際的なチーム構成だ。開発以外にも、カスタマーサポート、セールス、マーケティングなど複数の部署と連携している。
ヌーラボではアムステルダムとニューヨークに海外拠点がある。このような多国籍チームで最も大きな制約となるのが時差だ。「海外拠点とのやりとりの場合、特に時差の問題が大きいです。コミュニケーションが1往復するのに、翌営業日になるんですよ。今日伝達をしたら、深夜のうちに回答がきて、翌日になって日本のチームが確認するというサイクルですね」と木村氏は語る。この制約があるため、一度の情報伝達で正確に意図を伝える重要性が増しているのだ。

もちろん言語面での課題も重なる。
「エンジニア同士だと、やはり仕様をどうするかという話になることが多いです。でも、それをテキストで書いて伝えようとすると、なかなか難しくて、うまく伝わらないことがあります。しかも、やり取りは英語で行うものの、どちらも英語が第一言語ではないことが多く、どうしても指示が抜けてしまったり、意図がうまく伝わらなかったりするんです」
テキスト主体のコミュニケーションの限界は、複雑な仕様の共有で顕著に表れる。木村氏は具体例として、ユーザーカテゴリの分類を挙げた。
「仕様を検討する際には、網羅性が非常に重要になります。たとえばユーザーをいくつかのカテゴリーに分類する場合、無料ユーザーと有料ユーザーといった課金状況による区分や、日本国内のユーザーと海外のユーザーという地域による区分をするとします。これらを掛け合わせると、たとえば2×2で4つの組み合わせが生じることになります。このような分類を漏れなく整理し、認識を合わせなければなりません」
このようなマトリックス構造を文章で表現すると、情報に漏れが生じやすい。2×2程度であれば対応できても、3×3のように分類項目が増えてくると、抜けや漏れが一気に生じやすくなる。
そこで、図を用いることで状況を改善する。木村氏は、「1つの画面に収める形で3×3の象限として整理すれば、たとえば『このケースではこうなる』というように、視覚的に非常に把握しやすくなります。図にすることで、情報をきれいに整理できるため、わかりやすさが格段に向上します」と図解の有効性を説明する。
アプリケーション画面の仕様を共有する際も、図を活用することの優位性は明確だ。
木村氏は「画面にはもともと2次元の構造がありますから、その上で『このボタン』と指し示して説明するほうが明確です。たとえば『このボタンを押すとこの画面に遷移する』というように、相手との認識をそろえやすくなります。これを言葉だけで説明しようとすると、『どのボタンなのか』がわからなくなってしまうことがあります」と視覚的な共有の重要性を強調する。
不具合対応の現場でも、図を用いた情報伝達は効果的だ。木村氏は海外チームとのやりとりで実際におきたエピソードを共有した。
「特定の条件下でエラーが発生する不具合について海外チームに伝えた際、最初はうまく再現されず、状況を理解してもらえませんでした。その後、フローチャートを作成して手順を明示したところ、すぐに理解してもらえました。英語で長い説明文を書くよりも、情報を整理したフローチャートのほうが、伝達が早く、結果的にうまくいくことが多いと感じます」