組織横断コミュニケーションの課題と図活用の拡大可能性
現在、図を使ったコミュニケーションは、主に木村氏が所属する開発チーム内にとどまっており、部門をまたいだ運用には至っていない。木村氏は「そこは課題だと感じています。チーム内ではうまく活用できていますが、他部署との連携では、まだ統一的な運用はできていません」と現状を語る。
セールスやマーケティング、カスタマーサポートなど、他チームとの連携では、プロジェクト・タスク管理ツールの「Backlog(バックログ)」を中心としたテキストベースのやり取りが主流だ。議題は箇条書きでまとめられ、共有される形式で進められている。木村氏は、今後他部署とのやり取りでも図を取り入れることで、さらなる可能性が広がると見ている。
「たとえば付箋機能を使えば、誰がどの付箋を追加したかが視覚的にわかります。そのため、どのチームの誰の意見かが把握しやすくなり、他のテーマとの関連づけも容易になります。テキストベースの議事録では、誰が何を言ったかは記録できても、それらの相互関係を把握するのは難しいです」
また、図の活用には、参加者の当事者意識を高める効果もある。
「図を見ながら話すことで、『一緒に取り組んでいる』という感覚が生まれます。テキストだけだと、他部署の業務という印象が強くなり、自分とは関係ないものに感じられてしまうのです」と指摘する。
組織横断で図を活用するには、明確な運用ルールとリーダーシップが不可欠だと木村氏は言う。「図やドキュメントを会議にひも付けるルールを設けることが重要です。たとえば、会議のファシリテーターや、各部署の責任者が率先して活用を推進すると良いでしょう」と提案する。
ヌーラボでは、同社が掲げるチームワークマネジメントの方針のもと、個人のリーダーシップ育成を重視している。自律的に行動するメンバー同士の協働を促すため、会議のファシリテーションは持ち回りで実施され、全員が当事者として参加する体制が整っている。図を使ったコミュニケーションは、こうした文化と親和性が高く、情報を可視化しながら議論に主体的に関われる環境が、個々のリーダーシップを自然に引き出す土壌となっている。
また、同社では業務のPDCAサイクルに応じてCacooとBacklogを使い分けている。木村氏は「Planの段階では、年間のマイルストーンのような図を作成しています。DoやCheckはBacklogで、開発や不具合のタスク管理と進捗確認を行っています」と説明する。さらに「Actionでは、課題や振り返りを図にまとめ、時系列で整理して改善点に落とし込んでいます」と語った。

このような運用により、「ステータスが一目で把握でき、未完了の事項を見落とすことがありません。毎回新しい議事録を作るよりも、同じ画面を継続して使うことで、抜けや漏れを防げます」と、木村氏は継続性と網羅性の両立を強調した。
図を使ったコミュニケーションの導入にあたっては、「まずは会議に図をひも付けて活用してみてください。違いが実感できるはずです。会議をファシリテートする人が事前にオンラインホワイトボードなどのスペースを用意し、参加者に意見を投稿してもらうだけでも、議論は格段にスムーズになります」とアドバイスする。
図による情報整理は、概念同士の関係や階層構造を直感的に把握しやすい点に強みがある。文章や箇条書きでは伝わりづらい内容も、付箋の配置を通じて視覚的に共有できる。さらに、付箋を使えば発言の順番を気にせず、参加者全員が同時に意見を出し合い、それをその場で可視化することが可能となる。ツールによっては拍手や絵文字によるリアクションも取り入れられ、チームの一体感を高める効果も期待できる。
木村氏は最後に「一つひとつは小さな工夫に見えるかもしれませんが、積み重ねれば大きな変化につながります。まずは振り返りの場などから、気軽にオンラインホワイトボードを使ってみてほしいですね」と呼びかけた。