経営マターとして「CAIO」が必要な理由
生成AIの登場は、ビジネスの前提を根底から変えました。人間の思考を伴う業務の大部分を代替・支援できるこの技術は、もはや一部の先進企業だけのものではありません。すべての企業にとって「活用が必須」の段階に入っています。
私自身、大学院で人工知能の一分野である「知識工学」を研究して以来、技術発展の趨勢を見守ってきましたが、ここ最近のAI、とりわけ生成AIの進化スピードは、かつてのインターネットの普及をはるかに上回ります。この急激な変化に対して意思決定をいかに速く行えるかが、今後の企業の競争力を決める大きな要因となってきます。
当社(ラクス)ではこの変化の波を確実に捉え、企業としてさらなる成長を加速させるため、2025年7月にCAIO(Chief AI Officer/最高AI責任者)の役職を新設し、これまでもCOO的な立場で社内のAI活用を推進していた私が就任しました。
社内で生成AIサービスの利用が開始された2023年頃から、各現場ではそれぞれの業務効率化を図るような活用が少しずつ進んでいましたが、ボトムアップの取り組みだけでは経営インパクトを十分に生み出せないという課題がありました。そこでまず全社員のAI利用率がほぼ100%に達し、現場に活用文化が根付いた段階で、CAIOを設置する判断に至りました。
私のミッションは、生成AIの活用を通じて「売上拡大」と「利益創出」といった経営や事業運営に結び付け、方針として定めることです。これらを全社的に推進することが役割として求められています。
SaaS×AIは「付加価値」から「標準装備」へ

生成AIの浸透スピードは驚異的です。インターネットの商用が始まってから広く普及するのに10年近くかかったのに対し、生成AIは登場からわずか2~3年で、学生のレポート作成から企業の業務利用まで幅広く定着しつつあります。私たちは「1年で景色が変わること」を前提に、スピード感をもってAIへの取り組みを進める必要があります。
SaaS各社はAIを組み入れた機能開発を強化しており、「標準装備化」は時間の問題です。もはやAIは競争優位性を築くための差別化要素ではなく、「後れを取らないための必須条件」になりつつあります。
AIがもたらす「破壊」
AIエージェントの進化は、SaaSの提供価値そのものを変える可能性があります。
これまでSaaSでは人間がシステムを「操作」するのが前提でしたが、AIエージェントに対しては自然言語で「指示」するだけで業務が完結する時代に移行していきます。
業務の自動化という切り口では、RPA(Robotic Process Automation)の普及が進んでいますが、AIエージェントは、指定されたルールに従うだけのRPAとは違い、「自ら考えて」業務を進められる自律性を備えています。RPAでは対応できなかった「判断」が必要な業務を担うことで、自動化レベルは飛躍的に高まります。
これはつまり、SaaSが提供できていた便益や価値がAIエージェントによって置き換えられる可能性を意味します。足元では、まだまだある業務を遂行するための必要な情報を入力するにはSaaSが持つUI/UXが適しており、その背後でAIエージェントが呼び出されるようなシーンが中心になると思われます。
ですが将来、例えばAIエージェントが自律的に業務を遂行するための情報を収集できるようになれば、SaaSのUIを介する必要がなくなっていくかもしれません。AIエージェントが既存のSaaSを置き換えていくのには越えなければならないハードルも数多くありますが、そういった未来も想定し、今から動いていくことが重要だと考えます。
