3.リファレンスAI──SimCLRによる大規模バナー解析
ここからは、対照学習という仕組みに基づく、SimCLR(Simple Contrastive Learning of Representations)を用いた事例をご紹介します。これは、職人的な目利きに依存せず、大規模データを活かした自己教師あり学習によって広告を効率的にクラスタ(類似度グループ)化するアプローチです。
(1)Contrastive Learning(対照学習)とは?
従来の教師あり学習は、人間がラベル付けした「正解データ」を元に学習させるため、データ量がどうしても限られていました。これに対し対照学習では、同じ画像から拡張(クロップ・反転・明るさ変更など)した類似データ同士を「近い特徴量」に、別由来の画像データ同士を「離れた特徴量」にするよう学習させます。これはラベル付け不要の自己教師あり学習であり、大量のデータを一気にモデル訓練できるのが強みです。
この仕組みにより、人間がわざわざ画像にラベルを付けなくとも「似たような画像=特徴量が近い」という概念ベクトル空間をモデルが学習します。広告を数十万件単位で学習させれば、配色やレイアウト、トンマナが近いバナーを自動的に「近い」位置へマッピングし、外れ値やノイズを排除できます。


(2)広告クラスタリングによる代表クリエイティブの可視化
広告には配色・レイアウト・商品の配置パターンなど多様な要素がありますが、SimCLRのような自己教師あり学習を使えば、膨大な広告データを以下のように整理・活用できます。
クリエイターの感覚的な「似ている/似ていない」をAIが学習
あるバナーを入力すると、背景色や配置テイストが近いバナーの候補を数秒で大量に表示し、参考例を一覧できます。重複候補と見なせるほど類似度が高い(例:99%近い)バナーは検索結果から除外する仕組みも用意されており、クリエイターが制作プロセスでリファレンスを収集する時間を80%削減することに成功しました。

上位実績クリエイティブの可視化
似ている/似てないが分かるリファレンスAIを応用することで、これまで可視化が難しかったデザイン上のトレンドを可視化し、成果指標が高いバナーを抽出して類似したデザイン要素を持つクリエイティブをグルーピングすることが可能になります。
下図はヘルスケア系の広告をグループ化してマップ上に可視化したものです。密集している領域から中心点(×)を取り出し、それを代表クリエイティブとして抽出しています。


そうした分析を行うと、例えばヘルスケア系広告は人物のアップを多用し、金融系広告は数字を強調したレイアウトが効果的であるなどの傾向が浮かび上がり、高成果を生み出すクリエイティブに共通する要素を「勝ちパターン」として定義できます。
その結果、まだ試したことのない手法や要素について、次の広告制作における訴求やデザインの方向性として活用しやすくなります。
このプロセスを定期的に繰り返すことで、クリエイターの直感だけに頼らず、トレンドを観測しながらトレンドのクリエイティブを継続的に把握し、制作に適用させる仕組みを構築することができます。