はじめに
「一度PMFを達成した会社は、次も同じ手順で行けばきっと成功できるはずだ」──一見理屈ではそう見えます。ところが現実のプロダクト立ち上げのシーンでは、2本目・3本目のプロダクトが同じようにPMFすることなくサービスを閉じるケースのほうがはるかに多いと言えます。
私がプロダクトマネジメントに携わるようになってまだ5年程度ですが、その間に大小合わせて20以上のサービス立ち上げとそのクローズを行ってきました。その中で得た1つの結論は「『PMFした』という成功体験そのものが次の挑戦を難しくする」という逆説でした。

企業は1本目のプロダクトをPMFした瞬間から、時間経過とともに連続的PMFを実現する難易度が高まる傾向があります。例えば、以下のようなものです。
壁の種類 | 典型的な現象 |
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確率の壁 | PMFの成功確率を30%と仮定すると2連勝は9%、3連勝は2.7%。確率論的に「当たらない」のがデフォルトだが、「成功を前提」に考えてしまう |
顧客課題の探索難易度の上昇 | 1本目で「大きく、深い」課題を解決済み。残る課題は規模が小さいか技術難度が高いなど、そもそも難易度が上昇している |
組織慣性 | 初代プロダクトの勝ちパターンが「標準プロセス」化し、新規でも同じKPIや工程が援引される。グロース状態のプロダクトKPIを適用させようとする |
ブランド期待値 | 一度プロダクトが成功しクオリティが高いものが市場供給されると、MVPに対する顧客の期待値が高まり、学習コストが急増する |
リソース配分 | 基本的にはリソースが足りることはなく、既存事業もリソース不足が前提。新規事業やプロダクトに割いた人・金を数字で証明する必要に迫られ、学習ループが空転する |
本連載はこれらの壁を越え「連続的PMF」を遂げるための「土壌づくり」に関する方法を提示していきます。
PMFには「この方法でやったらうまくいく」といった近道など決してありません。ただし、「その成功確率を下げないこと(翻って高めること)」は可能です。そういった意味で企業として、「PMFに向かう土壌」をどれだけ整えられるかが重要な因子だと言えます。
第1回は最初に現れるリソースとKPIに関する罠と、そこから派生する思想面の打ち手を解説します。