はじめに
こんにちは! Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUI/UXデザイナー、新谷です。
これまでCreatorZineで約4年間、「UIUXについて話そう」という連載を続けてきました。日々変わりゆくデザインの潮流、AIの台頭、そして現場のプロジェクトで見えてきたリアルな体験の構造を中心に、UI/UXの本質を探ってきました。
そして今回、この連載は新たにProductZineへと場所を移すことになりました。プロダクトマネージャー、事業責任者、ビジネス視点を持つ開発リーダー。これまでとは少し異なる読者の皆さまに向けて、UIUXデザインを「意思決定の道具」へと翻訳する連載として、これからまたお届けさせていただきます。
AI時代、プロダクトの「前提」が静かに変わっている
ここ数年、わたしはUI/UXデザイナーとして多くのAIプロダクト開発に携わってきましたが、その中で確信していることがあります。
それは、「AI時代は『機能』ではなく『関係性』をデザインする時代である」ということです。
AI、特にLLMを中心とした生成技術は、プロダクトの挙動を固定されたものから「文脈によって変わるもの」へと転換しました。
- 同じ入力でも違う出力が返ってくる
- 状況を読み取り、推測し、提案する
- 裏側の思考プロセスは見えにくい

もはやプロダクトは、「決められた手順を提供するツール」ではなく、対話しながら共に歩く相棒のような存在になり始めています。しかしこの変化は同時に、ちょっとした混乱を生んでいます。
技術が進んだのに、体験が悪化するという逆説
開発現場でも、ユーザーからの声でもよく耳にするのは……
- 「AIが賢いのに、なぜか使いにくい」
- 「出力が意図と違う」
- 「勝手に判断されたようで不安」
- 「便利だけど、使い続ける気にはならない」
という違和感です。この違和感の正体は、「UIの外側で動くAIに対して、ユーザー側にメンタルモデル(どう動くかというユーザーの思い込み)が存在しないこと」にあります。従来のUXは、UI上にある要素のみで成立するものでした。
しかしAI UXでは、
- ユーザーが何を期待するか
- どこまでAIが自律的に判断するか
- どういう理由で結果が返ってきていると理解するか
といった、画面外の認知プロセスが体験を左右します。
つまり、UXデザインはもはやボタン配置の工夫ではなく、ユーザーの頭の中に形成される理解と期待のモデルそのものを設計する仕事へと進化しています。最近ではこのアプローチを「期待値のデザイン」と表現することもありますが、まさにその視点がAI時代の体験づくりの核心だと感じています。
AI UXの質を決める3つの原則
さまざまなAIプロダクトに関わる中で見えてきたのは、AI時代のUXを考えるうえで特に重要になる視点が、大きく次の3つに分けられるということです。
【1】透明性(Transparency)
AIの判断プロセスはブラックボックスです。だからこそUIを通して理解可能な形に翻訳する必要があります。
- なぜその回答になったのか
- どの情報を利用したのか
- どの程度の精度や確信度なのか
- どこにあいまいさがあるのか
これを適切に見せるだけで、AIは「不可解な存在」から「信頼できる相棒」へと変わります。
【2】制御感(Control)
ユーザーが主導権を感じられるかどうか。ここがAI UXの肝です。
- 方向性の指示ができる
- 生成の詳細を微調整できる
- 改善を促すフィードバックを送れる

人は「完全な自動化」に直感的な不安を感じます。逆に、わずかでも自分で方向性を調整できる領域があるだけで、体験の納得感は一気に高まります。実際、GPTなどにも「出力の傾向」や「文体」「詳細度」、自身のセキュリティ項目をユーザー自身が設定できるようになっていますが、これもユーザーの主体性を確保するための大切なUX要素です。
【3】フィードバック設計(Feedback Loop)
AI UXで最も革命的なのは、ユーザーとAIが「共に学ぶ存在」になる点です。AIは使われるほどに変化し、ユーザーもまたその特性を理解しながら関係性を築いていく。AIを単なるツールではなく、パートナーとして捉える視点がUX設計のポイントになります。
- 不一致を説明して直してもらう
- 好みが学習され、プロダクトが自分仕様になる
- 使うほど馴染む体験へと育っていく
プロダクトがユーザーと共に進化するという、体験が生まれます。
