モバイルアプリ市場の地殻変動とRAGA Tokyoの開催
2025年にはグローバルで非ゲームアプリの支出がゲームを上回るなど、市場の前提そのものが塗り替わりつつある。コンサンプション(消費量課金)の台頭も相まって、プロダクトマネージャー(PM)にとってはかつてない変化の波が押し寄せている状況だ。この巨大な変化の中でいかに成長を描くかを探るべく、モバイルアプリの収益化基盤を提供するRevenueCatが主催したのが本カンファレンス「RevenueCat App Growth Annual Tokyo 2026(RAGA Tokyo、ラガ・トーキョー)」だ。
世界と日本が交差する熱狂の場──RAGA Tokyo開幕
イベントの冒頭、RevenueCat日本代表の上田善行氏が登壇し、カンファレンスの趣旨を語った。本イベントは、海外の優秀なアプリマーケターやCXOを招聘した「Global Track」と、日本の第一線で活躍する事業者が議論を交わす「Japan Track」の2軸で構成されている。上田氏は「明日から役に立つような実践的なセッションをお届けしたい」と、イベントにかける熱量を滲ませた。
企画に携わったAdjustの高橋将平氏(Sales Lead Japan)は、モバイルアプリ業界に携わる多様なプロフェッショナルに向けて「グローバルのアプリから学ぶだけでなく、自分が考えていることの答え合わせだったり、『自分の方がグローバルよりも先に行っていた』というような、自信につながるきっかけにしてほしい」とエールを送った。また、コミスマの坂本達夫氏(海外事業室 室長)も「日本からグローバルに」というテーマの重要性に触れ、共にチャレンジする仲間を見つける場としての価値を強調した。
続いて登壇したRevenueCatグロースアドボケイトのデビッド・バーナード氏は、開発者の収益化を支援するという同社のミッションに触れ、「皆さんのビジネスを改善し、より多くの収益を上げるのに役立つような、実行できる実験のアイデアやプロダクトの変更に関するアイデアを持ち帰ってほしい」と呼びかけた。
原点回帰──日本のモバイル史への敬意と、現代の「供給ショック」
「皆さんが最初に成し遂げたのです」
基調講演に登壇したミゲル・カランサ氏は、日本の開発者やエンジニアに対する深い敬意から語り始めた。1999年の「iモード」誕生によるモバイルインターネットやサブスクリプションの先駆け、グローバル文化となった「絵文字」、そして東日本大震災を契機に生まれた「LINE」など、現代のアプリ経済で当たり前となっている概念の多くが日本で発明された事実を指摘。「世界で最も洗練されたアプリ市場である日本から学ぶ、すばらしい機会だ」と、イノベーションのグローバルな交流の重要性を説いた。
日本の市場規模は圧倒的だ。世界第3位のアプリ市場であり、ユーザーは年間166ドルをアプリに支出し、1人あたり平均25.3個のアプリをダウンロードしている。スマートフォンユーザーは1億人を超え、2027年には人口の94%に達すると予測されている。つまり「本質的にすべての日本人があなたのアプリの潜在的なユーザー、または有料ユーザーになり得る」とミゲル氏は語る。
しかし、機会の拡大と同時に、競争環境は劇的に変化している。ミゲル氏が提示したデータは衝撃的だった。彼がステージで話し始めてからの約3分間で、新たにアプリストアにリリースされたサブスクリプションアプリは「1つ」。一見すると少なく聞こえるかもしれないが、これは「3分に1つアプリが生まれている」という凄まじいペースを意味する。
同時に、その3分間で世界のアプリストアでは約100万ドル(約1億6000万円)もの収益が生み出されているという。サブスクリプションアプリ全体の収益は160億ドルに達し、アプリ数は11万5000件を超えている。
この劇的な変化の背景にあるのが「供給ショック」だ。アプリのリリース数は過去4年間で7倍に急増した。その要因はずばりAIである。AIによって「コードを書くハードルが取り除かれた」ことで、良いアイデアと解決したい課題を持つ人であれば、誰でも容易にアプリを構築し、市場に投入できるようになったのだ。プロダクトマネージャーにとって、アイデアを形にするコストが劇的に下がった恩恵であると同時に、かつてないレッドオーシャンへの突入を意味している。
「分断」と「AIパラドックス」──優れたプロダクトが陥る罠
供給ショックがもたらした最大の副作用、それが「分断」だ。
ミゲル氏が示したRevenueCatのデータによると、上位25%のアプリは収益を80%以上成長させている一方で、下位25%のアプリは収益を33%も減少させている。中間層が消滅し、勝者と敗者が明確に分かれる二極化が進行しているのだ。
「『価値を提供していないアプリがたくさんあるからだ』と主張することもできるでしょう。しかし、それは必ずしも真実ではありません。優れたプロダクトでも収益を取り逃しているケースも多いのです」とミゲル氏は警鐘を鳴らす。
勝者となる上位アプリは、ペイウォール、トライアル、チャーン(解約)対策といった「収益最適化」を積極的に行っている。ミゲル氏によれば、小さな収益化の意思決定が極めて大きな結果を生むという。例えば、強い制約を持つ「ハードペイウォール」は、フリーミアムモデルと比較して約5倍のコンバージョンを実現することもある。また、直感に反するようだが、2週間以上の十分なトライアル期間を設ける方が、ユーザーに価値を実感させ、結果的にコンバージョン率が高まる傾向にあると指摘した。
さらに、現代のプロダクトマネージャーを悩ませる新たな課題として「AIパラドックス」が挙げられた。AIを組み込んだプロダクトは、ユーザーの関心を惹きつけやすく、初期の収益化(コンバージョン)には非常に強い。しかし、その一方で「継続率(リテンション)に大きな課題を抱えている」という。
データによれば、AIアプリは解約が約30%早い傾向にある。初期のエンゲージメントは高いものの、長期的な利用に結びついていないのだ。ミゲル氏は「AIの『売る力』と継続的な価値提供を組み合わせるアプリを作っている開発者にとっては、大きなチャンスがある」と述べ、単なる新しさの提供から、本質的な課題解決によるLTV(顧客生涯価値)の向上へと軸足を移す必要性を強く訴えた。
