(前編はこちら)
買収から生まれた「Feedback」と、新設「Product Collection」
アトラシアンのクラウド製品は、使う人に応じてアプリを束ねる「コレクション」という単位で提供されている。サービス提供チーム向けのService Collection、ソフトウェア開発者向けのSoftware Collection、2人以上のチームワーク基盤となるTeamwork Collection(ConfluenceやJiraなど)、経営層・ビジネスリーダー向けのStrategy Collection。今回そこに、プロダクトマネージャー向けの「Product Collection」が新たに加わった。
このProduct Collectionの中核を担うのが、新アプリ「Feedback」だ。さまざまな経路から入ってくる顧客の声を自動で収集・分類し、意味のあるインサイトに変えて提示する、プロダクト企画担当者向けの製品になる。フィードバックはJira Service Managementのようなアトラシアン製品はもちろん、Salesforce、Zendesk、Teamsといった外部ツールからも自動で流れ込み、任意のMCPサーバー経由で追加データを取り込むこともできる。
注目したいのは、その出自だ。Feedbackは、2025年8月にアトラシアンが買収した「Cycle」を、組織の仕事の文脈を構造化してAIが使える形にためる基盤「Teamwork Graph」の上で再構築したものになる。
同社のマーケティング統括マネージャー 朝岡絵里子氏によれば、現時点で公開できる画面はまだないものの、社内で見ている限り、どこからどんなフィードバックが入り、それがどう分類され、顧客の典型的な利用パターンがどんなインサイトとして浮かび上がるか、といった内容がダッシュボードに提示されるという。
そして、すでにあった「Jira Product Discovery」(プロダクトのアイデアや機会を整理・優先順位づけする製品)にこのFeedbackが組み合わさることで、新しい「Product Collection」が形づくられた。
“顧客の声→洞察→アイデア→目標”を、Rovoがつなぐ
Feedbackが本当に強力になるのは、ここからだ。エンタープライズ製品のHead of ProductであるRae Wang(レイ・ワン)氏は基調講演で、アトラシアンのAIツールである「Rovo(ロボ)」がフィードバックのツリーから得たインサイトをもとに、プロダクトディスカバリーに向けた新しいアイデアを生成し、それをJira上の目標(ゴール)と直接ひも付けられると説明した。「これによって、すべてが一周してつながります」と同氏は表現する。
プロダクトマネージャーの実務にひも付けて考えると、この意味は大きい。これまで、顧客の声を集める作業、それを分類してインサイトを抽出する作業、そこから施策アイデアを起こす作業、さらにそのアイデアを事業目標とひも付ける作業は、それぞれ別のツールや手作業で分断されがちだった。FeedbackとJira Product Discovery、そしてRovoは、この“顧客の声→洞察→アイデア→目標”という一連の流れを、同じTeamwork Graphの上で一気通貫につなげようとしている。前編で触れた「実行が安価になるほど、何を作るべきかの判断が重みを増す」という変化への、プロダクト側からの回答と言える。
コンテキストを“壁の外”へ──MCP、CLI、そしてAIブラウザ「Dia」
Teamwork Graphの価値は、アトラシアン製品の中だけに閉じていては半減する。チームは日々、あらゆる場所のアプリを使って仕事を進めているからだ。そこでアトラシアンは、Teamwork Graphを外部へ開放する複数の入り口を用意した。
一つはMCPサーバーだ。FigmaやClaude、ChatGPTなど、すでに使っているAIアプリやツールから、Teamwork Graphに蓄積されたコンテキストを呼び出せるようになる。もう一つはCLI(コマンドラインインターフェース)で、ターミナルからコードベースで、あるいはAIコーディングエージェントが同じコンテキストへ直接アクセスするための入り口になる。
さらにアトラシアンは、Teamwork Graphにまつわる機能の入り口を「teamworkgraph.com」に集約した。アトラシアンのアカウントを持っていれば、先月から自分のナレッジグラフを可視化して確認できるという。
そしてもう一つが、AIブラウザ「Dia」だ。これはアトラシアンが買収した「The Browser Company」が開発するブラウザで、AIのナレッジが組み込まれている。ユーザーがわざわざプロンプトを投げなくても、ブラウザ側が仕事の文脈を理解し、先回りして情報を提示してくれる点が特徴になる。開いているタブや連携アプリからコンテキストを引き出し、例えば毎朝パーソナライズされた要約を届けたり、これから会う顧客向けのブリーフィングを用意したりする。プロンプトを打つ手間すら省く、という発想だ。
マルチエージェント時代の“管制塔”としてのJira
最後に、アトラシアンが描く戦略的なポジショニングに触れておきたい。朝岡氏は、調査会社Gartnerの予測を引用した。2028年までにエンタープライズソフトウェアの3分の1がエージェント型を組み込む一方で、そうしたプロジェクトの40%以上が失敗するだろう、という警告だ。理由は「調整の複雑さ」にある。
コンテキストがあればAIエージェントの回答品質が上がる、というのは前編で見た通りだが、それは単一エージェントの話にとどまる。これからは、専門性に特化した複数のエージェントが連携してタスクをこなす「マルチエージェント」の時代に入る。そうなると、エージェント間の調整や構成が一気に難しくなり、頓挫するプロジェクトも出てくる、というわけだ。
ここでアトラシアンが持ち出すのが、Jiraの20年の蓄積だ。仕事をステータスを持つワークアイテムとして管理し、ワークフローで遷移させ、誰が何をしたかを記録する。この構造が、マルチエージェントのオーケストレーションに必要な要件と一致する、という主張になる。これまで人間のためのワークフローツールだったJiraが、そのままエージェント群の「コントロールプレーン(管制塔)」になり得る、と朝岡氏は語る。
実際、メディア向け説明会でエグゼクティブ プロダクトマーケティングストラテジストの渡辺隆氏は、Jiraのカンバンボードにエージェントが作業するスペースを設けた事例を紹介した。
「このタスクはこのエージェント、このプレゼン資料はGamma(プレゼン作成用AIツール)に」と指示を割り振り、各エージェントが作業を進める。ここでも、AIに丸ごと任せきりにはせず、「これでいいか」と要所で人間に確認を求める設計が貫かれている。誰が・いつ・どのエージェントに・何をやらせたかを監査証跡としてログに残す点も、エンタープライズ運用を見据えた作りだ。
朝岡氏は、アトラシアンの差別化を3点に整理した。ナレッジグラフの構造的な優位性、特定のツールに閉じないオープンな設計、そしてマルチエージェントのコントロールプレーンとしてのJira。AIの性能差そのものではなく、AIが価値を発揮するための基盤で差をつける、という戦略だ。
