スモールビジネスをサポートするプロダクトを展開する「freee」──その組織構成は?
freeeは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、統合型経営プラットフォームを開発・提供している。
帳簿や決算書作成・請求業務に対応して中小企業の経理業務を効率化する「freee会計」は55%のシェアを誇る。また、給与明細作成や年末調整、入社手続きから勤怠管理まで対応する「freee人事労務」は40%のシェアとなっている。
ほかにも、「freee申告」「freeeマイナンバー管理」「freee会社設立」「freee開業」「freeeカード」といった多数のプロダクトを扱い、有料課金ユーザー企業数は38万事業所を数える。
同社は扱っているプロダクトが多いためプロダクトマネージャー(以下、PM)の数も多く、現在は30名ほどいる。各プロダクトに対して、PM、ビジネス、エンジニアそれぞれのヘッドを置き、その3人が協働して各プロダクトを成功に導いていく体制になっている。
組織体制はプロダクト、開発、ビジネス、コーポレートの4つの枠組みに分かれており、それぞれ担当取締役がついている。
同社でVPoPを務める宮田善孝氏が所属するのはプロダクトだ。プロダクトのトップはCEOの佐々木大輔氏が務め、プロダクトデザイン、プロダクトマネジメント、プロダクト企画の3つに分かれている。宮田氏は、プロダクトマネジメントとプロダクト企画を見ている。
「プロダクト企画は、会社が目指すべきゴールに対して全体として足並みがそろうように調整を行っている横断組織です。金融関連のAPIをつないだり、freeeとしてのAPIを公開したりするなど、他社と協働してプロダクトを進化させています。また、予算管理や人員配置管理などの経営企画的なファンクションも担います」(宮田氏)
もともとデータ分析と経営戦略寄りのバックグラウンドがあった宮田氏は、2019年にfreeeにジョイン。当時すでに20名ほどのPMがいたなかで宮田氏は当初、開発推進や新規プロダクトの企画に携わった。
宮田氏は「freeeプロジェクト管理」(※1)を作った。誰がどのプロジェクトに何時間使ったのかという工数を管理し、収支が合っているかも管理できるものだ。
「新規プロダクトの企画は自由度が高かったです。コンサル時代にやっていたように市場分析をしっかりして、どういうアプローチでどういうふうにエントリーしていくのがいいのか、プライシングまわりの調査も含めて行いました。PMというよりもコンサルのバックグラウンドが活きたと思う瞬間が結構ありました」(宮田氏)
(※1) 「freeeプロジェクト管理」の新規事業開発の詳細については、以下などを参照のこと。なお連載では、リリース当初のサービス名「プロジェクト管理freee」となっているが、現在では改称されている。
- 『ALL for SaaS SaaS立ち上げのすべて』(宮田氏の書籍)
- 「新規SaaSの企画検討からリリースまで! freeeの事例に学ぶプロダクト開発」(ProductZine連載)
- 『freeeの事例に学ぶ、新規プロダクト開発の進め方』(上記連載をまとめた電子書籍)
宮田氏は「freeeの特徴は、SMB(中小規模ビジネス)やスモールビジネス領域に対して多数のプロダクトを展開しているところです。これは他のSaaSではあまり見られないと思います」と語った。
SaaSの会社はエンタープライズ(大規模な法人)に向けてどんどん機能を拡張して単価を上げていくことでビジネスインパクトを出していくが、freeeの場合はSMBやスモールビジネスに向けているので、機能を拡張していくというよりは、どちらかというとプロダクトラインナップを増やして総合的にSMBのバックオフィスを中心としたサポートをしていくことに注力している。ただ単にプロダクトをどんどん出していくのではなく、それを統合的に使えるように、裏側でしっかりマスターを統合して一元管理されているような状態を作っている。
freeeの主力は会計や人事労務だが、「freee」という名称がついているプロダクトは20を超える。
「freeeが掲げているのはERPのような統合型経営プラットフォームです。ERPというと大手の上場企業が導入しているシステムというイメージが強いと思いますが、freeeは個々のプロダクトを裏側で統合し、プロダクトの数をしっかり出していくことによってスモールビジネスにも使っていただけるような製品を作っていきたいと考えています。スモールビジネスでERP的なエッセンスが絶対必要なものは会計や人事労務です。それはその周辺領域にもおよびますので、会計や人事労務から少しずつ周辺領域に広げていくような形で展開しています」(宮田氏)
freeeの会社としてのビジョンは、宮田氏が入社した2019年頃に変更になったという。それ以前は「バックオフィスを最適化してあげること」をビジョンに掲げていた。バックオフィスを最適化することで、よりクリエイティブな業務に時間を割いてもらうことをサポートするという考えだった。
現在はそこから一歩進み、ビジネス自体を伸ばし、スモールビジネスをサポートしていくといったビジョンを掲げている。freeeの統合型経営プラットフォームを使っていれば自由に自然体で経営ができてビジネス自体を伸ばしていけることを新たにビジョンに加えた。バックオフィスというレイヤーを少し取り払い、「統合型経営プラットフォーム」という言葉を用いて、より広い形で事業展開するためのポートフォリオ構築に向けて動いている状態だ。
「『freeeプロジェクト管理』もそういうエッセンスがありました。バックオフィスというよりは、実際にプロジェクトを回しているプロジェクトリーダーや、プロジェクトをデリバーしているエンジニアなどのフロントオフィス側の方が使うことをイメージして作りました。ビジョンを変える足がかりの一つと言えるようなものになったかなと思っています」(宮田氏)