本記事は、ソフトウェア開発者向けのオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」からの転載記事です(オリジナル記事)。
「顧客が本当に求めるもの」という逆問題を解く“銀の弾丸”はないけれど
「顧客が本当に求めているものはなにか」──プロダクト、サービス開発に携わるベンダーやSIerには永遠の課題と言えるだろう。弁護士ドットコム株式会社の市橋立氏は、ネットでよく見かける風刺画「顧客が本当に必要だったもの」を示し、「こういうものが広がるのは、開発に関わる人なら誰しも身に覚えがあるからではないか」と語る。
なぜ難しいのかといえば、「ユーザーは自分が『本当に』欲しいものを知らない」ためと言われる。言われたとおりに作っても、「ちょっと違う」と言われてしまう。ユーザーは本当に欲しいものを言葉にできない、そもそも欲しいものを知らない。そして、ユーザーの声は、必ずしも正しく伝わってこない。
市橋氏はプロダクト開発について「本質的に“逆問題”である」と語る。“順問題”が原因から結果を導くために分析的思考が求められるのに対して、“逆問題”は結果から原因を導くという逆のプロセスで、構成的思考が必要になる。一般設計学でも逆問題の体系化は難しいとされ、プロダクト開発では「課題の定義が不明確」「解が出て初めて問題が具体化される」「解が一意に定まらない」という制限がある。
こうした逆問題を解くのは、「サイエンス」ではなく「アート」といわれる。前提が正しければ結論も正しいとする「演繹法」、データから結論を導く「帰納法」とはまったく異なるアプローチとして、飛躍(=閃き)で推論する仮説先行型の「アブダクション」と呼ばれる方法がある。この「アブアクション」こそ「アート」であり、逆問題の解を導く鍵というわけだ。
しかし、市橋氏は「閃きで仮説を立てたとしても正解である保証はない。クラウドサインも逆問題に取り組んできたが、必ず課題を解決できる『銀の弾丸』などないことを実感している」と語る。ただし解決を見いだすために、「閃き」を仮説として取り組んできたことが、何らかの答えになったという実感があるという。