ユーザーフィードバックを得られる環境を用意し、事業の成長に役立てる
石垣氏は、2017年よりDMM.comのアカウント・認証におけるバックエンド基盤のプロダクトオーナーを経て、2018年7月にはリードナーチャリング領域強化チームを立ち上げた。2020年より、総合トップ開発部の部長を務めながら、アプリプラットフォーム基盤のプロダクトオーナーにも従事。昨年、『DMM.comを支えるデータ駆動戦略』(マイナビ出版)を出版するなど、データを軸にしたプロダクト開発の知見が深い。
冒頭、石垣氏は、プロダクトの構成要素として「事業(サービス)」「ユーザー」「組織」「データ基盤」の4つを掲げた。事業やサービスの不確実性と戦うには、ユーザーの行動パターンを集めるデータ基盤を用意し、組織はそのデータを活用して事業やサービスの改善に役立てるサイクルを回していくプロセスの構築が必要だ。ただし、データが万能かというとそうではなく、正しいデータを集め、適切な指標で改善活動をしていくことが重要だ。
プロダクトは、それを生み出す構築の段階ではユーザーがいないため、行動データは収集できない。しかし、最初の段階からその後のデータによる改善活動を意識したプロダクト開発をしないと、正しいデータを集めることができない。石垣氏は、ゼロからの構築段階では、あまり時間をかけず、最小限のものを素早く出すことが重要だと話す。そのあとはユーザーのフィードバックを得ながら、A/Bテストを繰り返して、プロダクトが収益化できるかどうか、スケールしていくか、という段階へ進めていくのだ。
石垣氏は受講者に「プロダクト開発におけるデータ関連で困っていることは?」という質問を投げかけた。回答の選択肢は「定量と定性の塩梅」「KPIツリーの作り方」「仮説検証の実施方法」「データ文化と組織」の4つ。このうち最も多く、52%の得票をしたのが「仮説検証の実施方法」だった。
そのうえで石垣氏は、「Part.1 事業を理解して、正しいベクトルで進む」「Part.2 仮説検証の繰り返しでユーザーを理解する」といった構成で講演を進行した。
ビジネス構造をKPIツリーに反映し、事業を観測・改善できるようにする
石垣氏はさらに「プロダクトのKPIを設定していますか? また、きちんと毎日データを見ていますか?」という質問を投げかけた。回答結果は、「あまり意識していない」が34%、「プロダクトのKPIを知っている」が32%、「毎日データを見ている」が21%となった。
KPIを認識するということについて石垣氏は、「KPIツリーは事業を科学的に見る手法だと思っています。毎日データを見ることは事業の健康診断なのです。正しいかどうかわからない場合に、仮のものでもいいので試しにやってみて診断することが大事だと思っています」と述べた。
事業というものは、資本や人、モノを投入した結果、売上や利益を得られる。そのプロセスにおける処理パターンが見えてくると、事業の方程式もわかる。方程式の変数に値を代入することで、売上や利益にどのような影響があるかを予測できる。方程式に代入する値の作用を観測しながら事業構造を正しく捉える手段が、KPIツリーというわけだ。
ECサイトなど、事業をインターネットで提供している場合は、ユーザーがサイトに訪問して購買するまでの一連の行動を、ログなどによってトラッキングできる。石垣氏は、「ソフトウェアのいいところはログが取得できることです。適切に取得できれば、ユーザーの行動を物語のように捉えることができます。そこで大事になるのが、事業の可観測性をログデータによって高めていくことです。どれくらいのコストをかけたら、どんな売上、利益を得られた、ということをユーザー単位で見られるというのが重要になります」と説明した。
例えば、「1日5万人が訪問して、100万円の売上がある」というデータがあって、これを10万人に増やそうといった計画があるとする。新規と既存顧客のデータを見て、市場としてとれる新規ユーザー数は大体獲りきっていて、既存ユーザーのリテンションが低いということがわかれば、新規獲得にはお金を割かずに、既存ユーザーのリテンションに注力すべきという方針を導き出せる。課題を見つけるための観測は重要だ。
観測した結果をもとに事業を改善していくにはどうすればいいだろう。石垣氏は「KPIツリーの中で、予算をかければ変動する値を見極める必要があり、これを操作可能変数と言っています。例えば、商品購入後のキャッシュバック割合、広告の予算、プラットフォームなら手数料の割合など、事業を提供する側が変更できる数値です。これを方程式に代入すると、全体の売上がどうなるかを予測できます。この中で、影響力の高い変数をキードライバーといいます」と解説した。