「PMM」の役割とは?
プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)とはどのような職種かご存じでしょうか?日本ではまだまだ馴染みのない言葉で、会社ごとにさまざまな定義がありますが、私なりの考え方をお話させていただきます。なお、海外の先行事例として、『Product Marketing Debunked: The Essential Go-To-Market Guide』という書籍や『State of Product Marketing Report 2019』というレポートを一部参考にしました。
一般的にプロダクトマネージャー(PM)は「なぜ、そして、何をつくるか」に責任を持ちます。例えば、ユーザーの課題を発見して、プロダクトロードマップの作成や仕様の要件定義を行い、エンジニア、UXデザイナー、QAなどとコミュニケーションを取ることが多いです。一方、PMMは「売れるモノをつくる」ために企画段階でプロダクトに対してインプットするなど、出来上がったモノを「どう売るか」に責任を持ちます。
では、どのタイミングでPMMが組織の中に必要となるのでしょうか。一概には言えないと思いますが、感覚的には会社が「ワンフロアでなくなった時」だと思います。例えば、会社の規模が100名未満でメンバーの顔と名前が一致して、気軽に話せる環境が整っている時は良いでしょう。比較的スモールチームの中で、PMが全てのステークホルダーとやりとりをすることができます。しかし、会社が成長してプロダクトの範囲が拡大し、ユーザーが多様化すると、それに伴って、事業部がいくつも分かれたり、ユーザーへのアプローチの仕方や販売方法も変わってきたりします。ここで、セールス、カスタマーサクセス、マーケティングなどのビジネス機能(Biz)の取りまとめとしてPMMという役割が必要となります。もちろん、スタートアップ期からPMMを雇うべきだという意見もあるので、ひとつの考え方としてご参考になればと思います。
PMMがどのようなゴールや指標を持ち、活動しているのかについてもご説明します。freeeのPMMには大きくふたつのゴールがあります。ひとつは「プロダクトローンチ」、もうひとつは「戦略的商品の利用促進」です。
プロダクトローンチについて、製品認知が低く売り方が確立されていない新商品を事業部で販売するのは、短期的にROIが下がることから優先順位が下がりがちです。それをPMMが介在し、うまく立ち上げる狙いがあります。「プロジェクト管理freee」の実例を用いて、後ほど詳述します。
戦略的商品の利用促進とは、例えば弊社ではユーザーに会計・人事労務の各プランを特徴づけるコア機能をより使ってもらえるよう施策を行うことを指します。申請・承認などのワークフロー機能の利用率をあげるために、セールス段階から訴求してもらえるよう売り方やコンテンツを作ったり、利用者の認知を高めるためのグロース施策やセミナーを企画したりと、課題に合わせさまざまな取り組みを行います。なぜPMMが利用促進にこだわるか。それはサブスクリプション型のSaaSビジネスにおいて、オーナーシップ(所有)ではなく、ユーザーシップ(利用)がユーザーの満足と契約更新に繋がるからです。
ユーザー価値を届けるための「Go-To-Market戦略」
当たり前のことではありますが、プロダクトをリリースすることはゴールではありません。ターゲットユーザーが購入し、実際に使ってみて、想定していた課題が解消された時、弊社でいう「マジ価値(ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをする)」がユーザーに届いたといえます。しかし、この当たり前のことをSaaS企業で実践するのは決して簡単なことではないと感じています。
向き合うマーケット、ユーザー、競合がめまぐるしく変化する環境の中で、弊社でも新しいプロダクトや新機能を次々とリリースしてきました。その変化の速さゆえに社内のBizメンバーの間でプロダクト周辺の業務理解が追いついていなかったり、セールスの提案資料や業務オペレーションが確立しないままローンチし、きちんとユーザーに価値が届かなかったりということがしばしば起きていました。
そこで、「プロジェクト管理freee」においては、リリースと同時に販売・カスタマーサクセス活動をスムーズに立ち上げられるよう綿密なスケジュールを立てました。この「企画」「調査」「開発からローンチ」「初期ユーザー獲得から利用」までの一連のプロセス設計は「Go-To-Market戦略」と呼ばれています。Bizと開発の間で共有されるマスタープラン(基本計画)では、プライシング、セールス向けの社内勉強会、品質テスト、リリース、プレスイベントなど大小すべてのマイルストーンを網羅しています。このマスタープランに基づいて、週次のミーティングを開き、関係者全員で進捗をフォローアップしました。
このGo-To-Market戦略の中でも、特にPMMが主体となって進めた重要な項目について、次節以降ご紹介します。