プロダクトマネジメントは、事業成長の基盤となるOS
「人と山をつなぐ、山の遊びを未来につなぐ」のビジョンをもとに、登山アプリ「YAMAP」の開発・運営などを展開する株式会社ヤマップ。通算240万ダウンロードを超え国内ナンバーワンの利用者を誇る。同アプリのプロダクトマネジメントチームは、土岐拓未氏、中島仁史氏、大塩雄馬氏の3人。それぞれが異なるバックグラウンドを持ちながら、プロダクトマネージャーに転身した。
登壇者
土岐 拓未
1979年福岡県出身。東京でB2Bのデータ連携ソフトの開発や新製品企画、プロダクトマネジメントに従事した後、2019年にヤマップに入社。
中島 仁史
1980年生まれ。熊本県出身。B2C、C2C、B2B2C企業などでソフトウェアエンジニアを7年ほど経験し、2017年にエンジニアとしてヤマップに入社。2019年からプロダクトマネージャーに。
大塩 雄馬
1993年、静岡県生まれ。新卒入社した会社で Web/アプリエンジニアとしてのキャリアをスタート。大好きな山登りの趣味を仕事につなげるためヤマップに入社。iOSアプリエンジニアとして従事した後にプロダクトマネージャーとなる。
今回の講演のタイトルは「国内No.1登山サービスYAMAPは、いかに『プロダクトマネジメント』をインストールしたか?」である。「インストール」が持つ意味について土岐氏は「私たちの仮説ですが、優れたプロダクトマネジメントはプロダクト成長のOSとして機能すると考えています。ユーザーと組織のさまざまな役割の人とを仲介し、さまざまなタスクの優先度を整理したり、データを連携して意思決定を行ったりする。ユーザーのニーズの把握と、ユーザーへの価値提供を安定した基盤で行うためのOSをインストールするようなイメージです」と説明した。
スマートフォンアプリのYAMAPは、通信インフラがない場所でも事前にダウンロードした地図データをGPSと組み合わせて登山をナビゲートできる。登山者の安全を高めるとともに、登山の記録を残せる機能や、ユーザー同士が交流できるコミュニティプラットフォームとしてのサービスも提供している。240万ダウンロードを超え、国内ナンバー1登山アプリになるまで順調に成長してきたかに思えるが、2018年9月頃に、組織やユーザー、そして機能の拡大、新事業の提供など、さまざま変化が訪れ課題が噴出した。
これらの課題を解決するため同社が行ったのが、プロダクトマネジメントの活用だ。組織にプロダクトマネジメントをインストールし、安定した基盤を築く「Install」、データを活用し、意志決定をサポートする「Decision Make」、アイデアを“リリース可能”にし、価値提供を行う「Deliver」の3つの作法について、3人のスピーカーから説明が行われた。
ユーザーニーズと自社の強みから、成長ドライバーを見つける
「Install」のスピーカーは中島氏。プロダクトマネジメント導入以前のYAMAPは、ビジネスモデルやグロース戦略が明確でなかった。中島氏は「大量にタオルを作って売ろうとして失敗したこともあります。当時のKPIはアプリの総ダウンロード数だったのですが、これは常に右肩上がりになって決して下がることのない『虚栄の指標』と言われています。しかもこの指標が行動につながるものではありませんでした。開発項目も個人の勘・経験・度胸で決定する、KKD Driven Developmentとなっていたのです」と当時を振り返る。
プロダクトマネジメント導入以前は、一部のユーザーの要望を実装してクレームが生じたり、そもそもリリースした新機能が使われているかどうかも測定していない状況であったりした。そして、離脱率が高い(インストールしたものの、継続して使われることが少ない)という問題が浮上し、これを解消するために調査が行われた。
中島氏は「データを調べてみると、特定の出来事を経たユーザーさんは末長く使ってくださることがわかりました。書籍や他社の事例などで見られる離脱率の数値と比較して仮に高かったとしても、自分たちのプロダクト特有の数値を見極めることが大事であることがわかったのです」と、データから得られた気づきについて話した。
そこから、ダッシュボードツール「Re:dash」などを使ってデータを調べてみたところ、ユーザーの8割が比較的に低い山に登っていることが判明。さらに、ユーザーからの問い合わせをSlackで共有したり、ユーザーアンケートをとったりすることでプロダクトの本来の価値を徐々に把握していくこととなる。
「数年前、YAMAPはコミュニティサービスを重視し、登山日記機能を提供しているのですが、これがあまり見られていないことがわかりました。われわれに期待されていることは、出版社が提供する地図がカバーしていないエリアの地図や、最新の登山道の情報でした。さらに、仮に地図が提供されていなくても、リクエストを受けて地図が追加されることも期待されていたので、柔軟に対応して地図を追加する流れを作っています」(中島氏)
地図をきっかけに登山ユーザーが集まることで登山道の誤りが修正されたり、新たな道が発見されたりする。そして地図の質と量が改善すると、さらにユーザーが集まる好循環によって成長を目指す、という方針が明らかになったのだ。
ユーザーが記す登山記録は、Google検索のインデックスや外部のSNSでのシェアによって新たなユーザーを獲得できることもわかった。これによって、検索流入や日記の投稿数、日記に対するリアクションやコメント数などの指標が見えてきたのだ。