半年で9年分の変化が起きた
「つくる人がもっとかがやけば、世界はきっと豊かになる」──この理念を掲げて創業したファインディは、今年で10周年を迎えた。ユーザー数は27万人、導入企業数は4000社を突破し、エンジニアプラットフォームとして確固たる地位を築いている。
しかし、代表取締役の山田裕一朗氏が冒頭で語ったのは、祝賀ムードではなく、開発現場と経営の間に広がる「深い溝」への危機感であった。
「2025年の3、4月からの半年間で、過去9年分に匹敵する変化が業界に起きた」(山田氏)
AI駆動開発の普及、大企業による開発内製化の加速、そしてエンジニア採用市場の変質。1時間半にわたる発表会では、これらの変化を裏付けるファインディ社内の生々しい実証データと、それに対応するための新たな事業戦略「変革の実装」が語られた。
「AIを使えば生産性が上がる」の落とし穴
生成AIの活用は、もはや実験段階を超えている。ファインディが2025年12月に実施した調査によれば、エンジニアの7割以上が業務で何らかのコーディングエージェントを利用しているという。
しかし、「AIツールを導入すれば組織全体の生産性は上がる」という期待に対し、山田氏は自社の実データを提示し、冷静な分析を加えた。
ファインディの開発組織では、Cognition AIの「Devin」などのAIエージェントを徹底的に活用する取り組みを行った。あるエンジニアの場合、記述するコードの約8割(現在は9割5分)をAIが生成しており、人間の役割は「コードを書く」ことから「指示(プロンプト)を出す」ことへと完全にシフトしている。
ところが、組織全体のマージされたプルリクエスト(PR)数を見ると、AI活用によってPR数は増えているものの、全体の総量は期待したほど爆発的には増えていなかった。その内訳を分析した結果、残酷な事実が浮かび上がる。
- シニア層(2〜3割):生産性が3〜5割向上
- 若手層(約4割):逆に生産性が2〜3割低下
なぜ、AIという強力な武器を手にしながら、若手の生産性は下がってしまったのか。山田氏はその要因を「問いを立てる力」の差にあると指摘する。
「シニアやマネージャークラスは、AIに並列で指示を出しながらレビューを行うことで効率化できる。一方、若手はAIへの指示があいまいになりがちである。その結果、意図しないコードが生成され、その修正や手戻りが増えてしまう」(山田氏)
AIを使いこなすためには、コンピュータサイエンスの基礎知識や、要件を定義する設計力が不可欠である。「AI時代だからこそ、逆に基本情報技術者試験のような基礎知識の習得を若手に推奨している」という同社の取り組みは、多くのエンジニアリングマネージャーやプロダクトマネージャーにとって重要な示唆となるだろう。
日本は「隠れAI活用大国」? 自腹を切るエンジニアたち
もう一つ、注目すべきデータが示された。日本のエンジニアによるAIツールの「自腹利用」の実態である。
Cloudflare Radarなどのデータによると、日本におけるGitHub Copilotなどの利用率は、米国に次ぐ高い水準にあるとされる。しかし、その費用の出所はいびつである。
ファインディのユーザーデータによれば、個人で生成AIツールに課金しているエンジニアの平均月額利用料は、9359円。1年前の約3000円から3倍以上に急増している。
「日本のエンジニアは、会社が導入してくれないため、自腹で月9000円以上を払ってでもAIを使っている。『これを使わないと時代に置いていかれる』という強い危機感の表れだ」(山田氏)
なぜ企業は導入に二の足を踏むのか。そこには日米の経営判断の違いがある。
「米国の企業は『AIを使うのはスタンダード』という前提で動いている。一方、日本の企業、特に金融機関などでは、導入前に厳密なROI(投資対効果)の計算を求められる傾向が強い。『ROIを計算している時点でナンセンス』という感覚のズレが、現場と経営の間に大きな溝を作っている」(山田氏)
この溝は、人材流動にも影響を与えている。AI環境が整備された企業や、内製化を進める先進的な大企業(トヨタ自動車や任天堂など)への関心が高まる一方で、環境整備が遅れた企業からは優秀なエンジニアが離脱していくリスクが高まっているのである。
