大丸徹也(だいまる・てつや)
株式会社Relic(レリック) 取締役 インキュベーション事業本部長。
慶應義塾大学卒業後、フューチャーアーキテクトでITコンサルティングやシステム開発のプロジェクトマネージャーを多数経験。その後、DeNAに入社し、主にEC事業領域での新規事業や大手小売業とのオープンイノベーションによる新規事業の運営責任者を歴任。2015年に独立し、大手出版社や大手IT、通信事業者、EC事業者やスタートアップへのコンサルティングやハンズオンでの経営支援などを手がける。2016年にRelicに参画し、取締役COOに就任。主に大企業を中心としたクライアントやパートナー企業の新規事業開発、オープンイノベーションの支援、組織・人事制度の改革やインキュベーションプログラムの設計等で多数の実績を持つ。2021年より現職。
創業から2500社以上の新規事業開発を支援してきたRelic
大丸氏が取締役を務める「Relic」は、2015年創業の新規事業開発に特化した事業を展開する企業だ。現在の主軸となっているのは「インキュベーションテック」「事業プロデュース」「オープンイノベーション」の3事業である。
「インキュベーションテック事業」では、新規事業を生みだすための仕組みや技術を組織に実装していくためのプロダクト群を開発/運営しており、イノベーションマネジメントプラットフォームの「Throttle(スロットル)」、クラウドファンディング+Eコマースプラットフォーム「ENjiNE(エンジン)」、マーケティング/CRM/営業支援プラットフォームの「Booster(ブースター)」、そして新規事業/イノベーション専門のオウンドメディア「Battery(バッテリー)」という4つのプロダクトをリリースしている。
「事業プロデュース事業」では、Relic自身の持つノウハウをベースに、事業化に向けた新規プロダクトの企画、開発から、その成長戦略の立案、実施までを、企業顧客のニーズに合わせて一気通貫で提供する。また「オープンイノベーション事業」では、企業がさまざまな事情から自社だけでは新規事業にチャレンジすることが難しい場合、Relicが事業パートナーとして引き受けて、新たなビジネスの可能性を検証する。もし、芽があると判断できれば、企業側が事業を引き取る以外にも、レベニューシェアでの事業展開、ジョイントベンチャーの設立など、さまざまなイグジットプランを提示できるという。またスタートアップやベンチャー企業への投資・経営支援も行っている。
大丸氏が責任者を務める「インキュベーション事業本部」では、これら3つの事業を横断的に組み合わせて、特に企業における新規事業開発の「0→1フェーズ」を支援している。
「Relicでは、主軸の3事業を通じて“挑戦者が正しく報われる世界にする”ことをミッションに掲げています。われわれ自身も、挑戦者として新規事業に挑み、成功させてきた実績があるので、そのノウハウを通じて、大企業からスタートアップまで、業種や業界を問わず、企業が抱える新規事業開発の課題を、実際に現場に入って解決していく取り組みを行っています」
Relicの特長は「新規事業開発」に関わるあらゆる機能を、1社で提供できるところにあるという。自身が「事業会社」として、複数の事業立ち上げを手がけてきた経験から「どのフェーズで、どのような意思決定を行うべきか」「作ったプロダクトをどう成長させるか」といったことを実体験から支援できる点が、一般的なコンサルティングファームやシステム開発会社とは異なる強みとなっている。同社が手がけた事業開発支援の実績は、創業からこれまでに2500社以上。事業プラン数では1万2000以上の案件に関与してきた、いわば「新規事業開発のエキスパート集団」だ。
悪手その1「顧客のニーズを捉えるより先に、プロダクトを作り始める」
多くの企業における新規事業開発、プロダクト開発を支援してきた中で「最も陥りがちなワナ」として大丸氏が挙げるのは「自分たちの技術でできることを起点にプロダクトを作り始めてしまい、顧客にとって何が課題になっているのかの検証を先送りにする」ケースだという。
「これは、自社の技術に自信がある会社に多いパターンです。自社にエンジニアリングリソースがあるような会社だと、過半数ほどの割合で、このワナにはまるのではないでしょうか。この場合、事業やプロダクトの方向性が明確なのはよいのですが、できあがったプロダクトがまったくユーザーに注目されないという悲劇を招きがちです」
大丸氏は「技術先行、プロダクトアウト的な進め方がすべて“悪手”というわけではない」と強調する。失敗の確率が高くなるのは、そもそもの出発点が「新しく開発した、この技術を使いたいから」「経営陣が“うちのこの技術を使って何かやれ”と言ったから」といったところにある場合だ。
「新しい技術について、“事業化の可能性を検証”するのは問題ないのですが、それをやっていたエンジニアが“いろいろ試しているうちにこんなのができちゃったんだけど”と言い始めて、“できたなら、それを売れ”という流れになってしまうのが典型的な失敗パターンですね。関係者が“それ、本当に欲しがっている人いますか?”と疑問を感じたとしても、すでにある程度形になっているプロダクトが、根本的なニーズの検証に立ち戻ることの障害になることは多いです」
悪手その2「早すぎる段階で過剰な投資をする」
加えて、新規事業開発、プロダクト開発の経験が浅い組織ほど陥りがちなもう一つのワナが「あまりに早い段階から過剰な投資をしてしまい、その後、何もできなくなってしまう」というもの。
「0→1フェーズに取り組もうとしている企業でよくあるのですが、まだどんなものになるのか分からない“0.5”くらいのプロダクトに、とんでもない額の予算を注ぎ込んでしまい、その後の身動きがとれなくなるというケースがあります。初期のプロトタイプとしてのプロダクトには、投入すべき適切なコスト感というものがあります。経験が少ないために、その感覚が分からず、結果としていき詰まってしまうプロジェクトが多いのは事実です」
「投資タイミングの見きわめ」を誤ることは、その1に挙げた「課題を捉えるより先に、プロダクトを作りはじめてしまう」ことにも直結する。プロダクト開発の経験が浅い企業ほど「これだけ投資をしたのだから、早々に利益を出せ」という社内でのプレッシャーは強くなる。結果として、顧客の課題に対する十分な理解がないまま、プロダクトを形にすることを目指してしまうリスクは高まるだろう。