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「カオナビ」のプロダクトマネジメントはどう行われている?――2人のPMが直面した課題と解決のカギを聞く

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2021/09/28 14:00

 ユーザーに価値を提供する「プロダクト」(製品やサービス)を通じて、ビジネスをドライブしていくマネジメントの手法や、その手法を実践する「プロダクトマネージャー」(PM)への、社会的な関心が集まっている。では、実際の企業では、どのような人々が、どのような思いでプロダクトマネジメントに取り組んでいるのだろう。今回、カオナビ社で執行役員 プロダクト本部長を務める平松達矢氏と、プロダクトマネジメントを担当する、草亭大樹氏、大倉悠輝氏に、プロダクト開発の現場で実際に直面した課題と、その解決にどう取り組んだのかを聞いた。

目次
(左から)今回お話しを伺った平松達矢氏、大倉悠輝氏、草亭大樹氏
(左から)今回お話しを伺った平松達矢氏、大倉悠輝氏、草亭大樹氏

HRテクノロジー領域に特化したプロダクトを展開する「カオナビ」――その組織構成は?

 「カオナビ」は、 社員の個性・才能を発掘し、戦略人事を加速させるタレントマネジメントシステムとして、2012年にスタートした。リリース当初は「企業が成長し、社員数が増えてきたときに、社員一人ひとりの顔を覚えるのが難しくなる」など、経営者の課題を解決するためのサービスだったという。

 「カオナビ」の特長は、社員それぞれの「顔写真」と「プロフィール」が一緒に表示されるユーザーフレンドリーなUIだが、これは代表取締役社長 CEOである柳橋仁機氏の「大勢の武将が出てきても、その顔と名前を自然に覚えてしまう、歴史シミュレーションゲームのようなUIを取り入れたらどうか」というアイデアから生まれたものだ。現在の「カオナビ」は、従業員の「顔」と「プロフィール」のデータベースを軸に、業務経験、スキル、評価、健康状態など、さまざまな情報を蓄積・分析できるタレントマネジメントシステムへと進化を遂げている。

 同社は現状、「カオナビ」を唯一のプロダクトとしており、全社員はこのプロダクトの価値を最大化することを目指して業務にあたっている。エンジニアを中心としたプロダクト開発のチームが「プロダクト本部」であり、同本部はアプリケーション開発を担当する「サービス開発部」と、インフラ基盤の開発を行う「SRE部」に分かれる。同社で執行役員 プロダクト本部長を務める平松達矢(ひらまつ・たつや)氏によれば、プロダクト本部でプロダクトマネージャー的な役割を現在約10名が担っているという。それぞれに、「カオナビ」を発展させるためのテーマを決め、それにコミットする形で作業に取り組む。

 「各担当者が取り組むテーマは、内容も粒度もさまざまです。具体的な機能に関わるケースもあれば、企業としての“データの利活用”のような、より大きなテーマに取り組んでいるチームもあります。その時々に取り組むべき課題を見つけ出し、解決にあたっています」(平松氏)

目玉となる新機能の「仕様変更」はなぜ必要だったか――草亭氏の場合

 今回、同社で働く2人のプロダクトマネージャーに話を聞いた。1人目は、入社1年目の草亭大樹(そうてい・ひろき)氏だ。前職では、モバイルゲームのプロデューサーとしてキャリアを積み、カオナビ社では、主に既存機能の改善、改修に取り組んできた。草亭氏にとって、特に印象深かったのは「スマートレビュー」の大規模改修を行った際の経験だったという。

株式会社カオナビ プロダクト本部 サービス開発部 Kaizen1グループ マネージャー 草亭大樹氏
株式会社カオナビ プロダクト本部 サービス開発部 Kaizen1グループ マネージャー 草亭大樹氏

 「スマートレビュー」は、いわゆる「評価」のためのフォームとワークフローが統合されたシステムで、企業オリジナルの評価制度を反映したり、組織の構造に応じて承認者を設定したりといったことが、ユーザー側で容易に行える点が特長となっている。「カオナビ」の機能群の中でも利用企業が多く、社内的にも注目度の高い機能だ。その改修は、プロダクト本部のメンバーだけでなく、営業や経営を含む社内のステークホルダーとも緊密に情報共有をしながら進められた。

 「仕様や機能については、企画当初の段階で各方面とすり合わせて決定していました。ただ、それを実装していく段階で、徐々に『あれ? これまずいんじゃないか?』という状況が出てきたのです」(草亭氏)

 問題は、主に性能に関するものだった。当初、改修後のスマートレビューでは、目玉機能の一つとして、更新したデータが、プロファイルブックと呼ばれる社員情報データベースに即時に反映される「リアルタイム更新」の追加を計画していた。たしかに、評価フォームに入力した情報が、他のデータベースと自動的かつ即座に同期される機能はユーザー体験の向上に寄与するものに違いない。しかし、開発チームが実装を始めたところ、性能や安定性の面で、いくつかの不安要素が見えてきたのだという。

 「プロジェクトを進める中で、性能面での不安を指摘する意見は表立って出てきていませんでした。すでに決定済みの仕様でもあるので、何となくそのまま『ふわっ』とした感じで進んでいたのですが、ここはいったん立ち止まる必要があると感じました」(草亭氏)

 あいまいな要素がある状態で、プロジェクトを進めるべきではないという判断は「経験からの勘だった」という。障害発生のリスクが増すことを承知で、当初に決めた機能を実装するか。それとも、安全性を最優先して、目玉となり得る機能をオミットするか。草亭氏は、プロダクトマネージャーとして難しい判断を迫られる。開発メンバーやサービスリード、インフラチームとも議論しながら、草亭氏が下した決定は「安全性を重視し、リアルタイム更新は見送る」というものだった。

 「評価機能のユーザー数の多さと、新機能への期待の大きさを考えれば、障害発生の可能性を高めるような改修は、ビジネス面で大きなリスクになると判断しました」(草亭氏)

 この判断は、新機能の決定に関わったステークホルダーにとって、簡単に承諾できるものではなかった。なぜ、当初のプランを変更しなければならないのか。ビジネス面での影響をどう考えているか。草亭氏は、社内の各関係者に対して説得を行った。決定そのものは容易ではなかったが、その妥当性を社内で理解してもらうことは「それほど困難ではなかった」という。

 「今回の件では、『お客さまがカオナビに何を求めているか』という点に立ち返って、実現すべき機能を再確認しました。私は入社1年目ということもあって、チームとの関係構築をしながらプロジェクトを進めたのですが、当社では、『仮説思考』のバリューが明確に社員に共有されていることを強く感じました。一般的な会社だと、上下関係や部署間の力学などが働いて、オープンな議論や合理的な決定が難しいケースもあると思うのですが、そうしたことがなく、部署が違う人とも、同じ価値観で議論ができるところが、とても『やりやすい』と思いました」(草亭氏)

 最終的に、スマートレビューのプロファイルブック連携機能は、リアルタイム更新を行わない仕様でリリースされた。パフォーマンスや安定性に問題はなく、ユーザーにも好意的に受け入れられたという。「お客さまに喜んでもらえる機能として、良い印象で世の中に出せたことは、結果として良かったと思っています」と草亭氏は振り返る。

 今回の件では、社内における草亭氏の仕事の進め方も高く評価されているという。平松氏は「彼は普段から、プロジェクトに関わるすべてのメンバーに、常にリスペクトを持って接しています。また、現場だけでなく、上司やフロントに対しても、プロジェクトの状況を細かく報告してくれていました。そうした普段の行動で信頼を得ていたことが、途中で仕様を変更するという判断に対し、社内の支持を得ることにつながったのだと思います」と話す。


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