プロダクトレッドグロースの重要性と、その実現に必要なこと
──オルソンさんの書籍『プロダクト・レッド・オーガニゼーション』では、プロダクトレッドグロース(プロダクト主導の成長;Product-Led Growth)の重要性と、その実現のため「企業の営みすべてがプロダクトを中心に据えなければならないこと」を強調されています。改めて、その考え方のポイントをお聞かせください。
私が主張するのは、「プロダクトが顧客体験の中心にある」というコンセプトです。
多くの企業はプロダクト(製品やサービス)を単に売るものと考えていますが、その売り方、サービスの提供方法、サポートのしかたなどは、すべてプロダクトそのものとは別の体験です。
そのため、従来の営業主導の販売戦略ではなく、プロダクト自体が顧客を獲得してくれるような「プロダクト主導の成長(プロダクトレッドグロース)」へ移行するには、ただプロダクトを購入できるだけでなく、そのサポートをすべてプロダクト内で行い、またプロダクトの中で使い方を学べるようにする必要があります。
つまり、私が「プロダクトを顧客体験の中心に」と言ったのは、顧客がプロダクトの提供企業とやり取りをするために、プロダクト以外の場所へ行かなくて済むようにするためなのです。それが、すべての中心にプロダクトを据えるべき理由です。
──プロダクト主導型組織の考え方に強く共感したとしても、一般的なプロダクトマネージャーにとって、組織全体を巻き込むその道のりは、とても遠く感じられるかもしれません。そのあたりでアドバイスはありますか。また、具体的な事例があれば、お聞かせください。
そうですね。どんな種類の変革であれ、重要なのは「小さく始めること」、そして「チャンスのある分野を見つけること」です。
英語では、「low-hanging fruit (低いところにぶら下がっている果物)」という表現があります。木に登って高いところにあるものを探すより、低いところにあるものを選ぶほうが簡単です。
ですから、私は、いつも低いところにぶら下がっている果実、つまり「測定可能な結果を得られる小さなプロジェクト」から始めるのが好きです。そして、その結果を活用して、より多くの仕事を続けるためのビジネスケース(プロジェクトを開始するための論理的な説明)を作るのです。
先日、私は日本の伝統的なビジネスをされているお客様に「あなたのビジネス分野で、従来の手法が思うようにうまくいっていないプロジェクトから着手しなさい」とアドバイスしました。そのような分野でプロダクト主導のテクニックを試してみると、もしかしたら良い結果を生むかもしれません。
変革の例もたくさんあります。
私たちの顧客の一つにBright Horizonsという米国の会社があります。仕事をしている間に子どもを預かってもらう保育所のようなサービスを運営しているのですが、コロナ禍で変革を余儀なくされました。
親が子どもを直接預けに行くのが難しくなったので、自宅から保育を依頼できるようなデジタル体験に移行する必要性が生じました。そこで彼らはスマートフォンを通じて保育を依頼できるようにしたのです。コロナ禍をきっかけに、プロダクト主導型組織へ変革した一例です。
コロナ禍で、多くの企業がビジネスのやり方を変えざるを得なくなったのだと思います。ある意味コロナ禍は、プロダクト主導になるための触媒、促進剤になったと言えるでしょう。
──ありがとうございます。具体的な部分についてはぜひ書籍を参照できればと思います。
トッド・オルソン(Todd Olson)
Pendo創業者兼最高経営責任者(CEO)。
14歳よりコーディングの仕事を開始し、学生時代にはスタートアップ、セレベラム(Cerebellum)を友人と起業。その後Pendoを設立するまで2社のスタートアップをゼロから築きあげ、内1社はIPOに成功、1億ドル(約140億円)以上の資本を調達した。ソフトウェア企業で会社勤務を経験した際は、ロシアのサンクトペテルブルクで200人のチームを引き継いだほか、日本での事務所設立も経験。