UXリサーチはなぜプロダクト作りにおいて重要なのか
メルカリが提供するスマホ決済サービス「メルペイ」。メルカリアプリ上で、メルカリの売上金がすぐ使えることから、メルカリユーザーにとっては欠かせない決済手段となっている。
メルペイは2018年11月にUXリサーチャーを採用した。それが草野氏である。草野氏は通信事業者の研究所でデザイン方法論の研究およびその知見を生かしたコンサルティングに従事するとともに、社会人大学大学院でシステムデザインマネジメント学の博士号を取得。「実業で学術的に学んだ手法や知見を生かしたい」という思いから、メルペイにジョインしたという。
現在、メルペイのUXリサーチャーは2名体制。草野氏はマネージャーという役割はあるものの「主にプレイヤーとして動いています」と話す。
そもそもUXリサーチとは何なのか。なぜ、プロダクト作りにおいて重要なのか。草野氏は、以下のように説明した。
「UXリサーチとは、UX(顧客の体験)を調べ、明らかにすることだと考えています。UXもリサーチも幅広い意味で使われるため、多岐にわたって取り組めることがあります。プロダクト作りでUXリサーチが重視されるのは、主に次の3つの役割を果たすからだと考えています。
第一はプロダクトのアイデアが出る前に、解決すべきものは何か、問いを立てること。第二はそのアイデアが意味のあるものなのか早い段階で試し、学びを得ながら洗練していくこと。第三がお客さまの生の声や体験をプロダクトに関わるメンバーに届け、人間中心の文化を耕すこと。お客さまによい体験を提供することを常に考える文化を、組織全体に醸成することはUXリサーチの重要な部分です」(草野氏)
UXリサーチと聞くと、プロトタイプや実際にプロダクトがリリースした後のユーザビリティテストと捉えられることもあるが、実はプロダクト作りの全体を通して重要で活用できるものだ。
「プロダクトを提供して使っていただくということは、お客さまの生活にそのプロダクトが組み込まれるということ」と草野氏。その生活を理解していなければ全く的外れなものを作ってしまう可能性もある。「例えばプロダクト自体を見て「良い」と評価されても実際に生活の中で使う機会がないものなら、意味がない。だからこそUXリサーチをとおして、プロダクトを作る前の段階から、お客さまの生活を理解することが重要です」(草野氏)
メルペイのUXリサーチャーの仕事とは
ではメルペイのUXリサーチャーはどんな仕事を担っているのか。「大きく3つの業務があります」と草野氏は語る。
まずは定期リサーチである。「毎週もしくは隔週に1回、90分間、4人のお客さまを招いて実施するリサーチで、社内のさまざまな案件のお声がけをいただく」という。定期リサーチは検証型で行うことが多い。検証型のリサーチとは、「こうなるだろう」という仮説やアイデアをもって行う調査で、仮説やアイデアの修正点がないかを探る。手法としてはユーザビリティテストやコンセプトテストなどがその代表例だ。
次に企画型リサーチ。これは案件の状況に応じて、ゼロからリサーチの企画を立ち上げるものだ。「今期もしくは来期以降を見据え、プロダクトや事業の状況に合わせて、戦略的に企画・実施します。このリサーチでは探索型を重視します」と草野氏。探索型のリサーチとは、まだ仮説がない段階において、「お客さまがどんな生活をしているのか」「どういったことに悩んでいるのか」など実態について調査することだ。これにより、今までにない新しい仮説を作れる。
3つ目はリサーチを自身で行うプロダクトマネージャーやデザイナーをサポートするリサーチサポートである。「彼らに伴走することに加え、UXリサーチの目的や手法などの知識が身に付くよう、コンテンツを作ったり勉強会を開催したりしています」(草野氏)
このようにプロダクトマネージャーやデザイナーが自ら本格的なUXリサーチを行うメルペイでは、量的なデータだけではなく、質的なユーザーの生の声も活かして意思決定したいという文化が醸成されているのが特徴だ。草野氏も、「そのために『UXリサーチ』というものを活用できるということを全体の会議で発信したり、日々の業務で社内の口コミ的に広がったり、UXリサーチチームを活用してもらえるような土壌作りをしています」と語る。