経営陣がプロダクトマネージャーに期待する理由
29万人以上医師が登録する医療従事者専用サイト「m3.com」などを提供するエムスリー。もともとエンジニアだった山崎氏は、執行役員でありながら、プロダクトマネージャーやチーフデザインオフィサー、QA の責任者を兼任している。
同社のミッションは「インターネットを活用し、 健康で楽しく長生きする人を一人でも増やし、不必要な医療コストを一円でも減らすこと」。およそ470名のメンバーでこのミッションに取り組んでいる。2000年創業から毎年増収増益しており、2020年は、COVID-19によるパンデミックの影響もあり、m3.com のアクセス数は前年比1.5倍以上に増えた。また製薬企業と医師へのコンタクトをデジタル化する事業も前年比2.5倍以上と急速に進展しており、医療現場を支える情報インフラ提供企業としての存在感を示している。
企業紹介のあと山崎氏は、「コロナ禍における医療業界の課題を解決していかなければならないと感じています。その中でプロダクトマネージャーの採用と育成がより重要となっています。今回は弊社のチャレンジについて共有したいと考えています」と講演の趣旨を述べた。加えて、プロダクトマネージャー育成するために重視している「プロダクトシコウ」という言葉を掲げた。
「シコウという言葉には複数の意味があり、プロダクトマネージャー育成においては、この7つのシコウが重要だと考えています」(山崎氏)
7つのシコウの説明の前に山崎氏は、今回の登壇のきっかけとなった、ProductZineチーフキュレーターであるレッドジャーニーの市谷聡啓氏との対談記事を紹介した。ここでは、プロダクトマネジメントにおいて陥りがちな失敗や、正しいアジャイル開発についての意見交換がなされた。
- 前編:優れたプロダクトは「学び」から生まれる――“アジャイルもどき”で失敗しないために組織に必要なマインドセットとは?
- 後編:アジャイル開発を正しく理解・運用しチームを導くプロダクトマネージャーを育てる上で必要となる「学びの環境と文化」
対談を振り返って山崎氏は「プロダクトマネージャーがアジャイルを使いこなさなければいけない理由や、とにかく早く作ることが重要な理由、同時にプロダクトマネージャーが経営陣から期待されている理由をお話しました。特に経営陣の期待に応えるために、『半分の期間で、小さなものを作る』ことが重要です。この認識がプロダクトマネージャー育成においても重要なポイントとなります」と語った。経営者や事業責任者は、事業やプロダクトを成功させるために優れたプロダクトマネージャーを求めているのだ。
IT企業の経営にとってプロダクトは差別化要因となるため重要だ。経営を左右するプロダクト開発の生産性やプロダクトチームの存続はプロダクトマネージャーの力に大きく依存する。レベルの高いエンジニア、デザイナー、QA担当者たちが自ら満足するだけではなく、「会社や業界、ユーザーのために貢献しよう」といった気持ちで、楽しく仕事ができる環境を作れるかは、プロダクトマネージャーの手腕にかかっている。
山崎氏は、プロダクト開発における生産性の勝利の方程式は、「プロダクトを発見する生産性」×「プロダクトを開発する生産性」であるとし、「トップレベルのプロダクトマネージャーとボトムレベルではそれぞれ10倍くらい差があるでしょう。したがって、経営における最終的な生産性は100番もの差になると考えています。ですから弊社のプロダクトマネージャーは事業責任者とともに二人三脚で課題を特定し、その解決策をプロダクトとして実現していくという特徴があります」と説明した。