多くのプロダクトマネージャーが生成AIに期待を寄せている
2020年に創業したフライルでは、VOC分析・プロダクトマネジメントクラウド「Flyle」の開発・提供を行っている。複雑なプロダクトマネジメント業務を効率化するための多様な機能を備えたクラウドサービスで、これまで100社以上の大手企業やスタートアップのプロダクトマネジメント業務をサポートしてきた。IT業界に限らず、製品やサービスの企画部門、カスタマーエクスペリエンス部門、プロダクトマネジメント組織など、幅広い部門で利用されているという。
財部氏は、プロダクトマネジメントのプロセスにおけるプロダクトディスカバリーについて説明した。これは自社のビジョン・戦略に基づき、製品が市場ニーズを満たすかどうかを検証しながら、価値を最大化していく工程で、顧客課題の探索とソリューションの探索という2つのステップに大別される。
課題の探索は、各データの収集・整理や拡大の分析を行う段階で、例としてはアンケートやユーザーインタビュー、データの加工などが挙げられる。課題やニーズの分析では、整理したデータを基にして、重要な課題の特定や優先順位の決定、データ分析などが行われる。そして、ソリューションの探索では、エンジニアやデザイナーと協力して課題の解決策を洗い出し、その解決策が実際に顧客価値に結びついているかを検証する。このプロセスを経てリリース・効果検証が行われる。
では、プロダクトディスカバリーがAIの導入によってどのように変化するのだろうか。2022年後半から話題となっている生成AIは、プロダクトマネージャーの間でも高い関心を持たれているテーマとなっている。「フライルが273名のプロダクトマネージャーに対して実施した動向調査によれば、6割が生成AIの活用による生産性向上の可能性を感じていると回答しています」(財部氏)
プロダクトディスカバリーにおいて生成AIが活用できるシーン
財部氏は生成AIには確かに高い可能性があるが、得意な領域と苦手な領域が明確に存在しているとした。 得意な領域として、1つ目に、数式やコードのサジェスト、2つ目に構造の整理されていないテキストデータの要約・構成、3つ目にコンテンツ生成が挙げられる。一方、苦手な領域としては、1つ目に誤情報の出力リスク、2つ目に最新情報の取得の遅れ、3つ目に情報が少ない領域でのデータ処理がある。
「生成AIは便利なツールですが、プロダクトマネジメントの文脈においても、得意・苦手な部分を理解し、補助ツールとして適切に活用することが重要です」(財部氏)
続いて財部氏は、プロダクトディスカバリーにおいて、生成AIがどのように具体的に活用されるかの全体像を紹介した。
まず、顧客データの収集・整理では、多くの企業が日常的に収集するVOC(顧客の声)の要約ができる。VOCには営業やカスタマーサクセスでのヒアリング、顧客インタビューのメモデータ、アンケートやレビューのコメント・機能要望など大量にあるはずだが、十分に活用されずにいるケースも多い。
AIによって分類や要約をすることで、確認・分類の大幅な工数削減や、傾向分析など、ニーズ分析の高度化が可能となる。
財部氏は「例えば、感情分析においてもポジティブ・ネガティブ・ニュートラルの分類が高精度で行えるようになっています」と語った。
顧客サンプルデータの生成も可能だ。新たな顧客セグメントやペルソナをターゲットとする際、その領域の理解不足からユースケースの想定が困難であり、適切な仮説を立てることが難しい。AIの利用により、サンプルデータの生成が容易となり、そのデータを活用して顧客理解を深めることが可能である。
課題・ニーズの分析におけるユーザー課題やソリューション企画における解決策のアイデア出しも生成AIで実現できる。アイデアは個人の経験やバイアスによって狭まることがあるが、AIならバイアスなく、多岐にわたる解決策やアイデアを提示できる。ただし、顧客情報や前提情報をいかにリッチにするかが鍵となる。
ソリューションの企画ではPRD(Product Requirements Document)の作成補助も可能だ。PRDなどの多くの関係者によって閲覧される書類には常に高いクオリティが求められるため、プロダクトマネージャーは、ドキュメント作成に多くの時間を割くことが一般的である。AIの活用により、条件に合わせたフォーマットのドキュメントを作成することで、クオリティの担保や工数の削減が可能となる。ここでも前提情報を用意することが重要だ。
財部氏は「顧客ニーズ、目的、制約条件、依存関係などの情報を正確に伝え、どのようなフォーマットでPRDを作成してほしいのかを明示する必要があります。ユーザーフィードバックやユーザーの各種情報をインプットすることで、自社のコンテキストに合わせたPRDを作成することが理想です」と述べた。
アイデア出しやPRD作成の前提として固有の顧客情報や前提情報の入力が求められるが、そのためにはセキュリティが担保された環境も必要となる。パブリックに使われるAIに入力すると情報漏えいのリスクがあるからだ。
ソリューションが適正かを検証する段階では、プロトタイプやモックアップが必要となる。ここでも生成AIが活躍する。UIデザインのパターン出しや手書きのスケッチ、プランの提示などによって、デザイナーの負担を軽減してさまざまな検証を短期間に実施できる。「デザイン系のツールは進化が早く、数多くのツールが市場に出ています。このようなツールの選定が今後のキーポイントとなると考えられます」(財部氏)
VOCの分類・分析で効力を発揮する「Flyle」のAI
AIの可能性について紹介した財部氏は、「Flyle」にもAI活用の機能を追加し、業務効率化の取り組みを実施しているとした。特に注力しているのがVOCの分類・分析で、2023年3月ごろから10社ほどの顧客とPoC(概念実証)を重ねてきた。
VOCには、製品改善に活かすために必要な情報が多く眠っている一方、大量に集まる顧客からの声を継続的に分析し、次の改善に活用することは困難を極める。「Flyle」ではそれらを解消する3つのソリューションを開発している。
1つ目は「自動分類・分析」。大量のVOCの自動分類、感情分析、キーワード分析、課題の分析などが可能となり、VOC分析・分類業務を圧倒的に効率化・高度化することができる。2つ目は「レポートによるビジュアル化」だ。AIによるVOCの分析結果を多様な形式で集計・レポート化できる。3つ目が「実務に使いやすい形のアウトプット」で、製品企画に特化した機能として、タグやキーワードの自動分類、課題のグルーピングなどが可能。
また、AIのアウトプットを手動で修正していくことで、自己学習が進み、分析の精度が向上していく。
「Flyle」にVOCのデータを取り込むだけで、ポジティブ、ネガティブ、ニュートラルなどの感情分析や、さまざまなトピックやキーワードに基づくタグの自動付与分類が可能である。また、異なる表現であっても同じ意味合いのVOCを高い精度でグルーピングする機能も提供されている。例えば、ユーザーからのフィードバックで「検索のスピードが遅い」といった指摘や、「ある機能への動線が分かりづらい」といった声があった場合、自動で関連する課題にグルーピングされる。
VOCはさまざまな形式や長さで存在するが、AIはこれを自動で要約し、感情分析を行うだけでなく、適切なタグを自動で付与する。タグ付けに違和感がある場合、手動での調整も可能だ。
財部氏は、このAI機能について、PoCに参加している顧客との綿密な対話によって精度を高めていると語る。実際、ある顧客では、これまでスプレッドシートを使って毎月1000件以上のフィードバックの分類作業をし、約150時間を費やしている作業時間をわずか2〜3時間に減らしたという。
ChatGPTのような汎用的なAIツールは手軽に幅広い用途で使えるものの、自社固有のデータや機密情報をもとにした分析や大量のデータ処理は難しいため、継続的に実業務で活用していくためには、「Flyle」のようにその業務に特化したAIツールを活用することが望ましい。また、「Flyle」にはAI機能だけでなく、外部ツールとの連携やエンドユーザーからVOCを集めるサーベイ機能もあるので、データの収集・分析・ロードマップの作成までプロダクトマネジメントのワークフローを一気通貫で支援できる。財部氏は最後に次のようにコメントした。
「業界や職種を問わず、顧客の声を活用したユーザー中心のプロダクト開発を推進していきたい方、事業成功に必要不可欠なプロジェクトマネジメント体制を構築していきたい方のお力になれることも多いと思います。各社にあわせたトライアルプランを提案いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください」
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