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【デブサミ2021】セッションレポート

三越伊勢丹はなぜ開発3か月で「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」をリリースできたのか?【デブサミ2021】

【19-E-6】三越伊勢丹が目指すNew Normalの購買スタイル

顧客起点の改善を桁違いのスピードで実現する体制(開発プロセスへの取り組み)

 本プロジェクトには、株式会社三越伊勢丹ホールディングス傘下の株式会社三越伊勢丹と株式会社IM Digital Labの2社が関わっている。顧客と対峙する三越伊勢丹には店舗側の業務設計を担当する導入チームがあり、開発チームはIM Digital Labのエンジニアやパートナーの15~16名(API側が10名程度、アプリ側が6名)で、フルリモートでのスクラム開発が展開されている。

 プロダクトオーナーは、三越伊勢丹から1名と、IM Digital Labの河村氏。そこにデジタルサービスデザイナー・ITディレクターである鈴木祥子も加えた3名のPOチームが要件の優先順位判定や整理・共有を行っている。

 開発体制のポイントのひとつが、週次での意思決定ミーティングだ。意思決定を速やかに行うため、POチームのほか、三越伊勢丹からはデジタル担当執行役員と導入チームの部長、三越伊勢丹ホールディングスからは情報システムデジタル開発部長、IM Digital Labの技術担当取締役も参加する。グループ一丸となって新サービスを成功させようという意思が感じられる体制だ。

PO チームが、経営層・店舗の導入チーム・開発チームをつなぐハブとなる
PO チームが、経営層・店舗の導入チーム・開発チームをつなぐハブとなる

 また、プロジェクト全体でも週次で開発プロセスを回すことに取り組んでいる。導入チームは売り場の接客業務をサポートしながら、顧客や店頭の販売員のフィードバックをもとに今後の案件の候補をエントリーしていく。エントリーされた案件候補は、POチームで優先順位を判定したうえ、意思決定ミーティングにて最終決定する。実施が決定した案件は、具体的な要件をPOチームで整理 したうえで、開発チームに開発を依頼。開発チームは1週間単位の開発スプリントの中で開発を進め、POチームはその内容を週次のスプリントレビューで確認している。POチームは、導入チームとも週次で情報共有定例を実施しており、その場で翌週のリリース内容や今後の開発予定案件を共有している。

 「案件のリストは常に2か月程度先まで見据えて整理しているが、新しい案件が出てくれば必要に応じて優先順位は見直す。大きな組織は意思決定と現場への展開に時間がかかりがちだが、開発だけではなく、役員を交えた組織決定現場との調整も週次のサイクルで行うことで、顧客のニーズに柔軟に対応しつつスピード感を持った開発を実現している」(鈴木氏)

 この開発プロセスによって、サービスの課題と開発内容のリンク、顧客起点の品質、組織内での視点の共有が実現されている。

POチームを中心に、経営層と、開発、売り場が密接に関わるプロセスを確立
POチームを中心に、経営層と、開発、売り場が密接に関わるプロセスを確立

 サービスの課題と開発内容のリンクについて、顧客の具体的な要望に基づき開発している。例えば顧客とテキストチャットしている中で、洋服の質感を確認できるよう生地の揺れる感じを動画で見たいという要望があり、動画の提供を導入。写真だけでなく、数十秒の動画でちょっと見たいというニーズがわかり、開発着手している。

 また、顧客起点の品質を実現するため、案件については機能ではなく、目的の共有に重きを置いている。例えば「ある画面にボタンを追加してほしい」というだけの案件は受け付けず、「顧客の体験を改善する」「従業員の業務負担を軽減する」といった目的を重視している。同意を得られた目的を実現する細かな仕様や具体的な実装は開発チームに委ねることで、最適な機能の提供ができると考えているからだ。

 「提供スピードも重視されており、機能を完璧にするよりも、素早くリリースすることを優先している。取り組み当初は完璧なものを最初に作りたいという意識がどうしても働きがちだったが、今はプロジェクトメンバー全体の意識が変わっている」(鈴木氏)

 顧客の要望を叶える完璧な機能をリリースするのにさらに1か月かかるのであれば、まずは50%程度要件を満たすようなものを2週間でリリースして、足りない部分は業務で補うといった判断ができるようになっている。もちろん、顧客起点の品質を念頭に置いているため顧客に迷惑をかけないことを大前提ではあるが、クイックにリリースする体制ができあがっている。

 組織内での視点の共有は徹底されていて、Slackでも売上や接客数、顧客の声など日々のレポートを共有している。これによって、開発メンバーのモチベーションが高まり、改善提案も出てきやすい状況が作られている。業務側では売上が伸びているショップの知見を共有するきっかけにもしている。

 これらの顧客起点の品質を実現の成果について桁違いのスピード感の改善ができているという。

 「新しいプロジェクトのため、試行錯誤が必要だが、そのための開発プロセスができあがっている状況。導入チームの部長から『何だかわからないけどものすごいスピード感で改善されていく』という声もあがっている」(鈴木氏)

 2か月分の案件リストがプロジェクトメンバーに共有されているので、開発チームが今何をしていて、その先の見通しもしやすく、なおかつスピード開発に耐えられるプロセスができあがっているのだ。

人とのつながりを促進するデジタル活用で新たな伝統を生み出す

 リモート接客という新たな購買体験の確立は道半ばで、スピーディーな開発・導入によってさまざまなノウハウを蓄積している段階だ。河村氏は「従来の接客では、『どの商品がいつ売れたか』というPOSレジの購入履歴以外の情報が残らない。だがリモート接客の場合は『なぜ』が加わる。チャットや接客時のメモなどをきちんと形に残すことで購入の背景を推し量ることは重要なファクターの一つと考えている」と語った。データによって顧客を深く理解した接客をしたり、AIを活用した自動化などに役立てたりする可能性を秘めているのだ。

 これまでと違うやり方で、しかもデジタルツールというだけで、接客の現場では敬遠される恐れもある。売り場のメンバーがやる気にならないことには顧客の満足を高めることは難しい。そのため三越伊勢丹グループでは、全社横断のデジタル推進部門を構え、導入の推進を行っている。この部門には長年店頭で接客を行ってきたエキスパートが所属し、その知見を活かしながら各ショップに寄り添い、導入を促進している。

 1年後にはリモート接客が当たり前の購買体験となることを目指しているという本プロジェクトでは、現在は顧客の声に耳を傾けながら、さまざまな試行錯誤をしている段階だ。IM Digital Labのタグラインは「Boost the Classic(伝統×テクノロジーで小売の未来を切り拓く)」である。河村氏は、セッションの締めくくりに次のようにコメントした。

 「百貨店の強みは人である。人とのつながりが生み出す体験を、ご来店いただけないお客さまにも届けることは可能だと思っている。アプリはその手段のひとつである。また、伝統というのは守るものではなく変えていくことであり、百貨店もどんどん変われると信じている。店頭で販売するスタイリストや買い付けをするバイヤー、そしてわれわれIM Digital Labも含めて、みんなが時代にあわせて変革に取り組み、新たな伝統を生み出せるよう、挑戦していく」

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

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