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アジャイル文化をチームから組織に拡張するプロダクトマネージャーの挑戦【デブサミ2021】

【19-E-4】アジャイルカルチャーをチームから組織に拡張し、OKRを組み合わせてプロダクトの成長を加速させる

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2021/06/24 11:00

 2016年、開発と運用チームが分かれた組織で、より良いプロダクトを開発しようともがいていた5名のエンジニアメンバーが、「アジャイルサムライ」でスクラムと出会った。4年が過ぎ、現在は非エンジニアを含めて30名を超える事業部には“Scrum of Scrums”によるプロダクト開発が文化とともに根付いているという。そうしたアジャイルカルチャーの組織への浸透を意図し、エンジニアからプロダクトマネージャーへと転身した株式会社Rise UPのモアコンタクト事業部 事業部長の上園元嗣氏が、その経緯について語り、目標管理手法であるOKR(Objective and Key Results)とアジャイルカルチャーを組み合わせた手法について解説した。

目次
株式会社Rise UP モアコンタクト事業部 事業部長 上園元嗣氏
株式会社Rise UP モアコンタクト事業部 事業部長 上園元嗣氏
講演スライド

「イベント=スクラム」ではない。重要なのは透明性・検査・適応の三本柱

 現在はRise UPで、カラコン通販の「モアコンタクト」を束ねる事業部長として活躍中の上園氏。7年前は、起業して非エンジニアとしてプロダクトの開発に打ち込んでいたものの、「十分な技術的知識を持ち合わせず、要件をまとめきれずに漠然としたイメージを伝えるのみだった。その結果、さまざまな齟齬が生じ、思うような開発ができなかっただけでなく、エンジニアにも過大な負荷をかけ続けてしまった」と振り返る。

 しかし、上園氏自身はプログラミングを経験し、エンジニアリングの勉強を楽しむようになる。そして5年前にRise UPへ入社し、多様な仕事に取り組む中で、“伝説のスクラムチーム”を生み出し、現在はさらにスクラムを用いた組織全体への働きかけに取り組んでいる最中だ。

 そんな上園氏にとってスクラムは「国民の必修科目」に等しいという。しかしながら、2020年11月にスクラムガイドがアップデートされ、抽象度が上がったこともあり、「初めて実施しようという人には難解かもしれない」と懸念する。確かに「開発チーム“だけ”でスクラムができている」「スクラムイベントをやっているからスクラム」といった誤解もいまだ多い。

 そもそもスクラムの全体像を見ると、スクラムイベントはほんの一部に過ぎず、イベントが機能するには「価値基準の実施」が十分になされている必要があり、それが担保できなければ、イベントどころかスクラム全体が破綻しかねない。そして、イベントが機能するには、スクラムの三大柱である「透明性」「検査」「適応」が実現していることが不可欠だ。

 まず「透明性」とは何か。スクラムガイドには、スクラムから生み出される作成物として「プロダクトゴール」「スプリントゴール」「インクリメントの完成の定義」が上げられており、それらを作成するための作業やプロセスは、作業を実行する人と受け取る人の両方に見えるよう、透明性が担保されている必要がある。例えば、トップダウンで決定されたプロダクトゴールが説明のないまま落ちてきて、目的がわからないままスプリントを回していても、それは決してスクラムとは言えない。当然ながら、最適化が十分に行われずにプロダクトの価値が下がり、意思決定にリスクが混入することが容易に想像される。

 そして、2本めの柱の「検査」とは、端的に言えば「異常や悪いところがないかどうか調べること」であり、スクラムガイドでは“スクラムの作成と合意されたゴール”、すなわち「プロダクトゴール」「スプリントゴール」「インクリメント完成の定義」の進捗状況は頻繁かつ熱心に検査されなければならない、とされている。この時、あくまでイベントは検査を支援するためにリズムを提供するだけの存在にすぎない。さらに解釈して言えば、イベント以外でリズムを作れるのであれば不要ということだ。それでも上園氏は「はじめのうちはイベントのリズムに乗ることが良い」と助言した。

 3つめの「適応」についてスクラムガイドでは、「潜在的に望ましくない変化や問題が検査できた時は、できるだけ速やかに調整しなければならない」と書かれている。なお、スクラムガイドでは、検査が22回、適応が17回登場しており、非常に重要な概念であることが伺える。「そもそも検査をしても適応しなければ全く意味がない。あくまでセットとして考えるべきだろう」と上園氏は強調した。

スクラムで不可欠なチームメンバーの役割と責任

 上園氏はスクラムチームのあり方について、あるチームの物語を例にとって紹介した。「山に関するおしゃれなアルバムを作る」というプロダクトゴールがあるとして、それを実現するスクラムチームのメンバーは「アルバムの制作の計画を立てる人」「アルバムを作れる人」、そして「そのサポートをする人」になる。

 当然ながら作業に必要なスキルと経験を備えている必要があり、プロダクト開発に関して必要なすべての活動と、スプリントごとに有用なインクリメントを作成する責任が持たされる。

 まず「アルバムを作れる人=開発者」の1つめの責務は、スプリントの計画を作成することだ。ただし、スプリントの“ゴール”は開発者だけで決めるのではなく、チームで決定する必要がある。さらに「スプリントバックログ=タスク」に分解し、計画に反映させることもあるだろう。また、定められたインクリメントの完成定義に準拠して品質を作り込む責任を持っており、スプリントで行う作業をリアルタイムに反映させる必要がある。こうした一連のプロセスの公開が透明性の担保につながっており、それを含めて開発者の責任となる。

 そして、「この道で行こうと決められる人=プロダクトオーナー」の責任は大きく2つ。1つは、スクラムチームから生み出されるプロダクトの価値を最大化すること。そしてもう一つは、効果的なプロダクトバックログの管理だ。2020年の改定では、プロダクトゴールの作成と伝達が追加されており、それらを含めても全体的な責任を負うことが求められている。

 最後に「スクラムマスター」は、スクラムチーム、組織、そしてプロダクトオーナーに対して、それぞれ責任を持ち、行動は多岐にわたる。例えば、プロダクトオーナーが定めたゴールに対して影響を与えるステークホルダーがいる場合、チームと引き合わせ、インセプションデッキなど全体の認識をそろえるためのツールを用いて期待値の調整を行うことも、スクラムマスターの役割だ。この時に大きくプロダクトの方向性が変わることもあり、非常に重要な責任を持つ。これにより、チームはより明確に集中して、コミットできるプロダクトゴールへと格上げすることができるというわけだ。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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