日本と米国で比較する「生成AIを取り巻く環境」とは
──まずは曽根原さんが本書の翻訳を手掛けることになった経緯を教えていただけますか。
原著者の一人であるShyveeさんは、米国のプロダクトマネージャーコミュニティでインフルエンサーとしてよく知られた存在なのですが、彼女とは同じプロダクトマネージャーとして、LinkedIn本社で一緒に働く機会が多かったんです。
そんな彼女が『Reimagined: Building Products with Generative AI』を出版したと聞いて。Amazonのレビューを見てみたら、プロダクトマネージャーやアントレプレナーの方から「いろいろな意味でかなり役立っている」といった高評価がついていたこともあり、「もしよかったら日本語に訳してみない?」と僕から持ちかけたのが始まりです。
──本書はプロダクトマネージャーやアントレプレナーの方向けという理解で合っていますか。
そうですね。プロダクトマネージャーやアントレプレナーの方はもちろんのこと、大企業の新規事業部門で「生成AIを使った新しい事業を立ち上げたい」とか、「既存のサービスを生成AIでより研ぎ澄ましたものにしたい」といったニーズをお持ちの方にもぜひ読んでいただきたいです。あとは、そうした現場の方だけではなく、経営に携わる方も手に取っていただけたら、と。
「そもそも生成AIとは何か」から始まり、「生成AIを活用したプロダクトビジネスはどうあるべきか」、「生成AIを活用したプロダクトをつくっている現場の人は何を考えているのだろう」といったことまでお伝えしているので、立場に応じて、それぞれ得られるものがたくさんあるのではないかと思っています。
──米国でも生成AIを使ったプロダクト開発には高い注目が寄せられているのでしょうか。
えぇ。生成AIは、プロダクト開発において、もはや避けては通れないトピックですね。むしろ、プロダクト開発の議論の中で生成AIのワードが出てこなければ、「頭おかしいんじゃないの?」と言われるほどです。当然、議論したうえで「やっぱり今は生成AIじゃないね」という結論に達するのは良いんですよ。でも、「生成AIを使うことで、より魅力的なサービスにできないか」という議論がないまま進んでいくなんて、ありえない。
スタートアップから大企業まで、生成AIを自社のプロダクトでどう活かそうかと、みんな真剣に考えています。VCのお金が生成AIのスタートアップに大きく流れているのは、間違いないトレンドですしね。
──日本の生成AIを取り巻く現状をどのようにご覧になっていますか。
最近、ChatGPTを提供するOpenAIが、アジア初として東京に新拠点を設立したというニュースがありましたが、日本でも生成AIが大きな注目を集めるようになっていますよね。すごく良い流れだと思う一方、過去の新しいテクノロジーが出てきたときと同じ轍を踏まないよう、気をつけてほしいとも思っています。やれクラウドだ、ブロックチェーンだ、DXだ、と新しい言葉にすぐ飛びついて、「なんだ、あまり効果はないじゃないか」という人が必ず出てきますよね。
とはいえ、当時と決定的に違うのは、今はプロダクトマネジメントに対する理解が日本でも広がってきていることです。本書では、こうした新しいテクノロジーを自分のビジネスに取り込むためのプロセスやフレームワークについて、事例を用いながら一歩踏み込んだ紹介をしているので、ぜひ日本のみなさんにもお役立ていただきたいと思っています。
──すでに「ChatGPT使えないな」というつぶやきを目にすることがありますが。
正直、「どんな使い方しているのですか?」と思ってしまいますね。なんでも100%を求めがちなのは、日本人の悪い傾向です。そもそもChatGPTに100%の正解を求めるのは、完全に間違っている。例えるなら料理本を読んでいるのに、一度も料理を作らないで文句を言うようなものです。GPTモデルがどんなふうに動いているのかを理解していないから、そんな的外れなことをしてしまうんですね。
もちろん、ハードウェアのように100%に近い状態を追求しなければならない世界があることは分かっています。車なんてある程度の完成度が担保されていないと、人が死んでしまいますから。でもChatGPTはそうじゃない。まずは自分で使ってみて、何が得意で、何が得意じゃないのかを理解したり、期待通りに動かないならその理由を考えたりしてから、自分なりの評価をしてもらいたいと思います。