インサイトの数と質、そして活用の機会が不足していた
吉岡氏はママリのプロダクトマネージャーだ。ママリでは、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアがそれぞれ明確に縦割りで役割分担されているわけではなく、リサーチの企画から実行、分析に至るまで、みんなで協力しながら取り組んでいる。
ママリは妊娠、出産、子育てに向き合う方々のためのプロダクトだが、吉岡氏自身は妊娠・出産・子育ては未経験。そのため、リサーチによってユーザーへの価値提供の確度が上がると考えている。ユーザーとの対話を増やし、ユーザーよりもユーザーを理解することを重視している。また、プロダクトマネージャーとして、開発者やデザイナーなど、さまざまなステークホルダーを巻き込む役割を持っている点も大事にしている。
吉岡氏は「ユーザーを理解しているプロダクトマネージャーが信頼されることで、プロダクトチームでの意思決定も進めやすくなる。だからこそ、私はユーザーリサーチを大事にしています」と述べた。
ママリは直近半年でユーザーリサーチの方法を変えた。2023年11月ごろまでは、吉岡氏が仮説を思いついたときに企画して実行するという形で、2~3か月に1回程度の頻度でリサーチを行っていた。
あるとき、プロダクトマネジメントコーチの森氏と知り合い、「プロダクトビジョンを見直すべきか悩んでいます。また、プロダクトの目標数値をどのように設定すべきか迷っています」と相談したところ、ユーザーとの対話の頻度が少ないとの指摘を受ける。森氏は、オンラインのインタビューだけでなく、子育ての現場で何が起きているかを見に行くことを推奨した。そして吉岡氏は、もっと探索的にそして多く深くユーザーのことを知りたいと思うようになる。
ユーザーリサーチについて改めて検討すると、3つの課題が見つかった。まず、ユーザーのインサイトを見つける上で「示唆の多さ」が大事だが、リサーチの頻度が低く、ユーザーやインサイトの引き出しが少ない上に、仮説検証のリードタイムも長いことが分かった。また、オンラインでしか接点を持てず、妊娠や育児といったリアルな生活に踏み込めていないため「示唆の深さ」も問題だった。さらに、多くの示唆を得られたとしても、当時はそれがチーム内に閉じてしまっており「示唆の活用」も不十分だった。