250名規模の組織にプロダクトマネジメントを導入
──まずは大久保さんのご経歴と現在のお役割を教えてください。
もともと出版社で編集の仕事をしていたのですが、インターネット化の波に遭遇したことを機に、「30歳までにインターネットを活用した情報発信ができるようになりたい」という思いから、エンジニアにジョブチェンジしました。
その後、コンサルタントを経て、2006年にLIFULLに入社。不動産オークション事業といった新規サービスの立ち上げなど、さまざまな事業に挑戦したあと、LIFULLの国際事業を担当することになったんです。そこでスペインの子会社のM&Aに携わり、そのままそちらへ出向してバルセロナで2年間、ローカライゼーションチームのリーダーを務めていました。
2017年に帰国したタイミングで、1度LIFULLを離れてスタートアップに転職したのですが、2018年には再びLIFULLに戻ってきました。今はHOME'S事業本部のCPOと分譲マンション事業のCEOを兼任しているほか、サービス企画の人たちが集まるプロダクトプランニング部の部長も務めています。
──プロダクトプランニング部には何名ほどいらっしゃるんですか。
100名ほどですね。弊社は内製しているので、社内の開発体制でいうと、プロダクトプランニング部の人たち以外にも、エンジニアが業務委託も含めて約200名、デザイナーが約20名います。
──機能別組織になっているということですね。
そうです。『INSPIRED』(マーティ・ケーガン著/日本能率協会マネジメントセンター)という書籍に感化されて、3年ほど前に弊社でもプロダクトマネジメントをしっかりと取り入れようという話が持ち上がったのをきっかけに、書籍を参考にしながら組織体制を見直しました。
それまでは、社内にプロダクト開発の型がなく、チームによって職種のコミット範囲にばらつきがあったり、計画通りにリリースすることがプロダクト開発のゴールになってしまっていたり、といった課題があったんです。
そのときにプロダクトマネージャー・テックリード・プロダクトデザイナーという役割を新設して、それぞれがコミットするプロダクトの価値やリスクを以下のように整理しました。
- プロダクトマネージャー(サービス企画):ユーザーはこのプロダクトを購入したり選んだりしてくれるのか?(Valuable:価値)/事業として実現・継続が可能か?(Viable:事業実現性)
- テックリード(エンジニア):私たちはこのプロダクトを開発できるか?(Feasible:実現可能性)
- プロダクトデザイナー(デザイナー):ユーザーはこのプロダクトの使い方が分かるか?
──『INSPIRED』に則って進めていくことに異を唱える人はいませんでしたか。
サービス企画・エンジニア・デザイナーのそれぞれのトップで話し合い、「『INSPIRED』の世界観を目指して、ミドルもしっかり巻き込みながらトップダウンで進めていこう」と握っていましたし、CTOやCCOをはじめ、主要関係者には書籍を読んでもらって解像度高くありたい姿を共有した上で推進していましたので。
とはいえ、まっさらな状態からプロダクトマネジメントを導入したわけではないため、それなりの苦労や難しさはありました。LIFULLは1997年創業で、長年、脈々と受け継がれてきた開発プロセスがある中で、それをガラッと変えるのは、やはり非常に大きなパワーが必要でした。社内にプロダクトマネジメントを体系的に理解している人もおらず、知見がありませんでしたしね。
──それでも結果的にうまくいったのは、なぜでしょうか。
先に述べた通り、経営層から現場まで、誰もが課題を感じている状態であり、その課題を解決したいという思いが合致していたからだと思います。それに、書籍を読むだけでは分からないところは、有識者の方に直接会いに行ってお話を伺い、組織に反映させることを愚直に繰り返していました。
LIFULL HOME'Sには約10のプロダクトがあるのですが、すべてのプロダクトマネージャーが集まって、各チームの困りごとを相談し合う場を、隔週で設けていました。それにより、例えば「メンバーがプロダクトマネジメントをやっているという自覚を持てていない」という課題があったときには、「チーム内でプロダクトマネジメントに対する振り返りをしてみては?」というアイデアが出て、実際にやってみたところ、現場の自覚が少しずつ醸成されていった、ということもありました。こうしたすごく地味な積み重ねが、ボディーブローのように効いていったのかな、と思いますね。