プロダクトマネジメントのスキルを身につけるには
──西田さんの役割としてはプロダクトマネージャーに近いのでしょうか。
そうですね。Sansan Labsをリリースした2018年から2020年くらいまでは、どちらかというと研究開発部の技術ありき、あるいはデータありきで物事を考えることが多くて。いわゆるプロダクトアウトの発想で機能開発をしていました。
しかし、それだと「おもしろいね」で終わってしまうことが多くて。ちゃんと使ってもらうには、ユーザーの課題解決に向き合いきれていなかったんだと思います。それじゃダメだと思い、前の上長で現VPoPの西場(正浩)に1on1をしてもらいながら、少しずつマーケットインの発想も身につけて、プロダクトマネジメントのスキルを磨いていきました。
なので今のSansan Labsに載っている機能は、プロダクトマネジメントの手法で生まれたものもあれば、技術力を示すためのものもあり、プロダクトアウトとマーケットインの両方のバランスを取りながらリリースしています。
──アカデミックなバックグラウンドをお持ちの方が集まっていると、どうしても技術ありきの機能開発に寄りがちだと思うのですが、ちゃんと使ってもらうには、プロダクトマネジメントも学ぶ必要があったということですね。
そうです。データサイエンスや機械学習をやっていると、どうしても手法やモデルにばかり着目してしまうんですね。でも本来、それらは解決策の一つでしかない。まずは課題があって、それをどう解くかの選択肢として、データサイエンスや機械学習がある。この考え方をするようになってから、逆に、以前よりも技術の使いどころが分かるようになってきた感覚があります。
何より重視すべきは、解決策ではなく課題のボリューム。「その課題がいかに大きいのか」「その課題は、どのくらいの頻度で発生しているのか」「今はどれほどの金額をかけて課題解決しているのか」といったものを定量的に把握して、そのボリュームが大きければ大きいほど、ビジネスインパクトも大きくなる。そんな課題を見つけてから、データ活用の観点で解決策を考えるようにしています。
──課題を探す際に、「この技術を使いたいから、証拠を集めよう」といったバイアスがかからないように注意されているということですね。
おっしゃる通りです。常にゼロベースで考える。特に、今だと生成AIが注目されていますが、「それって、ほんとうに生成AIでやらなきゃいけないんだっけ?」と問い直すようにしています。他の手段を使ったほうが、クオリティはさほど変わらずに、ユーザー体験が良くなる、といったこともありますから。
──西田さんはプロダクトマネジメントを学ぶために西場さんと1on1をされていたとのことですが、いつからどんなふうに進めていったのですか。
西場が研究開発部に来た2021年7月からです。課題を見つけるために、2か月かけて社員60人にヒアリングするところから始め、社内にどんな課題があるのか、ユーザーさんの課題を解決するためにどんな機能があればいいのか、書き出していきました。さらに、それをもとに新規事業のアイデアを考え、代表の寺田やビジネス開発室のメンバーに提案させてもらいました。結局、ほとんどボツになってしまったのですが(苦笑)。
──西田さんが出演されたポッドキャスト(経済学999)では、「1つの課題に対して100個のシーンを出す」というお話もありましたが、量は重要だとお考えですか。
そうですね。考えた過程を可視化して、さまざまな観点の抜け漏れがないかを確認できますし、100個のシーンを書き出すのと書き出さないのとでは、解像度の高さが全然違うんですよ。その後の工程で解決策を考えるときのやりやすさも変わってきます。これをしたことで、良い課題なのか、そうでないのかの判断も自分でできるようになってきました。
──そうしたアウトプットを意識していると、日頃のインプットの質も上がりそうな気がします。
それはありますね。本も「ここはこんな形で取り入れられそうだな」と考えながら読むようになるので、1冊読めば5~6個のアイデアは見つかる感覚があります。
──今は西田さんもマネージャーという立場になって、メンバーの方と1on1をする機会もあるかと思うのですが、プロダクトマネジメントをどのように教えていますか。
プロジェクトをどんどん任せながら、不足している観点があればちゃんとフィードバックして、都度気づいてもらえるように、強く意識しています。例えばメンバーがヒアリングしたときに、ちょっとおかしな回答が返ってきたら、「最初の質問の聞き方を変えたほうがよかったんじゃない?」と指摘したりとか、課題を見つけたときに、「そもそもそれって、どれくらいの頻度で起きてるの?」と確認したりとか。あとは、新卒でプロダクトマネジメントに興味がある人には、『ジョブ理論』(クレイトン M クリステンセン・著/ハーパーコリンズ・ジャパン)を読むように薦めています。