部門のインセンティブ構造を意識したストーリーテリングの力が組織を動かす
木下氏は、「プロダクト開発の文脈では、ユーザーの課題にフォーカスする傾向にあるが、部門に『ユーザーのためにいい』という話を繰り返しても、自身が抱えるビジネスの課題を解決するものでなければ、提案としてすら受け入れてもらえない」と語る。そこで、ユーザー課題だけでなく、会社課題や事業課題の解決にそれぞれどう貢献するかを意識しながら、社内でのコミュニケーションを図ってきた。
例えば、育児記録アプリ「赤ちゃんノート」は、スマートフォンなどで手軽に赤ちゃんの成長や日々の出来事を記録できることで人気を集めている。ユーザーとダイレクトにコミュニケーションが取れるツールであり、日記の使用状況から情報提供のタイミングを推し量ることができる。この例で言えば、粉ミルクからフォローアップミルクに切り替わる時期に、栄養補完やそれに適した商品に関する情報を提供できる点が事業課題の解決にあたる。
「事業部が、粉ミルクからフォローアップミルクへのスムーズな移行を課題としているのであれば、その解決策の一つとして、『アプリによるタイムリーな情報提供が課題解決の有効なアプローチとなる』と評価し、アプリの価値の理解が進むはず。当然ながら人が集まるアプリとなるためには、日々記録をつけたくなるような機能開発や機能改善が必要であり、ユーザー視点が重要であることは変わらない。しかし、事業部と話をする際には『部門のビジネス課題をどう解決するか』を意識することで話が通りやすくなる」と、木下氏は語る。
一般にスタートアップのプロダクトはゼロから組み立てということが多いが、すでに事業の軸足がある会社でデジタルプロダクトを開発しようとすれば、必ず既存のコンテキストが存在する。そこから派生するビジネス課題に対して真摯に向き合うことが大切だ。法務や情報システム部門についても、それぞれのコンテキストに基づき、コアな課題や対策について話すことで協力を得られるという。ただし、そうしたコンテキストを把握するのは社外の人では難しく、あらかじめリサーチして、各部門のビジネス課題や興味関心などを整理しておく必要がある。
川端氏が橋渡し役として存在感を発揮できているのは、営業や開発などを経て横断型の部門に長らく所属していたことで、社内の文化やコンテキストを把握していることに加え、各部門のビジネス課題や、キーパーソンなどとの繋がりがあることが大きかった。そうした川端氏からの情報を踏まえて、エキスパートである木下氏らがデジタルによる解決策などの仮説設計を実施し、実際に伝えた後に反応や理解度などをフィードバックして調整し続けている。
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しかし、すべてがスムーズに行くわけではなく、理解されない、協力が得られないというネガティブな反応が返ってくることもある。当然、やらないほうがいい理由はいくらでも合理的に説明できてしまう。しかし、そうした状況であっても再チャレンジすることに意欲を見せる川端氏に対して、木下氏は「うまくいくまでなんとかするという熱量が増え、ある瞬間から大企業のDX推進担当者としての覚悟が決まったと感じた」と評した。
その言葉を受けて川端氏は、「抽象度が高かった時期に比べ、サービスがローンチされ具体化してきたことで、明治のDXとしてやるべきことやゴールに対して、確信が持てるようになってきた」と語る。つまり、川端氏自身も「体験すること」によって理解が深まり、納得感を醸成できたというわけだ。
異文化が融合する中で、明治の潤沢なアセットを活かしてデジタルプロダクトを開発
木下氏は、「人が理解するということには、ロジカルに頭で理解することと、体験から感覚的に感じることの両方がある。ロジカルを積み上げていくと結論に向けて最短距離を走りたくなるが、そこはやはり一緒に体験を積み重ねて、感覚的な“腹落ち”を信じて待つことも重要だと感じるようになった」と語る。
川端氏も「正しい道を歩いているのか分からず、まだ手探りではあるが、振り返った時に小さな成果でも形となったことが自信になり、相手を説得する力になる。その意味で、まずは動いて形にすることが重要だと感じている」と語る。
今でもローンチしたものに対して「不完全」という意見が社内から上がらないわけではない。当然ながら大手の食品メーカーのモノづくりとして、安全性や品質を確認し、大きな設備で大量に生産することは理にかなっており、アジャイルな開発手法に違和感を抱くのは当然なことだ。しかし、そういう人でもデジタルプロダクトがユーザーのフィードバックを受けつつグロースしていくのを体験すれば、感覚が大きく変わるという。
そんなWellnizeでデジタルプロダクト開発に関わる仕事としての面白さについて、木下氏は「明治の潤沢なアセットを活用してビジネスに参画できる」ことにあると語る。例えば、腸内細菌のタイプに合わせて飲料を提供する「インナーガーデン」は、検査のための研究開発やエビデンスの取得、ドリンク素材の配合や製造プロセスなどをベンチャーでそろえることは難しいものの、明治のアセットを活用することで実現できた。Wellnizeのプロダクトマネージャーは得意とするデジタルサービスの構築やマーケティングに集中しながら、そのような体験ができ、成果に伴うインセンティブまでも手に入れられる。
異文化間でブリッジしながら、食品とデジタルの強みを融合させてサービスにする。確かに、その取り組み自体がチャレンジングであり、難易度が高いからこそ、得られた体験やスキルはどのような組織や文化においても役立つことは間違いない。とりわけWellnizeの組織規模のプロダクトマネージャーは、ミニCEOと呼ばれるほどに、プロダクト開発を前に進めるために全方位で取り組める胆力が求められる。
現在、Wellnizeでは、新プロダクトの開発も複数予定されており、開発・構築を担うエンジニアおよびプロダクトマネージャーを募集している。一定整備されたとはいえ、大手とベンチャーという異文化が融合する中でのプロダクト開発は、新しいユニークな体験もできることだろう。ぜひ、興味のある人は応募してはいかがだろうか。