形にすることで認識のずれを可視化し、巻き込み力を高める
このように、プレスリリースプロトタイプをつくってみて、チームメンバーやメンバー外に提示することで、共通認識をとりながら、関係者のコミュニケーションを促進していくことが可能です。
このコミュニケーションを促進するという効果は、学術的にも示されています。例えば、ミネソタ大学のCarlye Lauff博士は、企業現場での参与観察を通じて、プロトタイピングが「学習」「コミュニケーション」「意思決定」の3つに強く貢献することを明らかにしました(Lauff et al., 2018)。中でも「コミュニケーション」は、新規事業において特に重要な役割を果たすと指摘します。なぜなら、プロトタイプが抽象的なアイデアやソリューションに対する認識を、関係者間で具体的かつ明確に共通化することにより「あれ、思ってたことと違うんだけど」「あ、実は似たことをもう進めていて」というようなことを防ぐことができるのです。
さらに、プロトタイプを提示された相手は、プロトタイプが未完成であるが故に、「自分はこう思う」と意見を言うことになります。これは、そのプロジェクトに対して積極的に関与することにつながる可能性があります。
近年の組織行動研究で「自分が意味を付与した」という感覚は対象への帰属意識を高め、行為主体としての自分を強く認識させ心理的オーナーシップ(psychological ownership)を生むことが指摘されています(Pierce, Kostova, & Dirks, 2001)。つまり、プロトタイプに対して「突っ込む」ことで、当事者意識を持たせることが可能なのです。
このように、プロトタイプを用いることで、周りの人との認識のずれを可視化しながら、さまざまな人から意見を出してもらいながら巻き込んでいくことができます。
プロトタイプにはこのような効果があるので、ぜひこのプレスリリースも実務で活用してみてください。
次回予告
次回は、既存サービスの改善プロセスで活用できる「UI/UXプロトタイピング」についてご紹介します。
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参考文献
- Lauff, C. A., Kotys-Schwartz, D., & Rentschler, M. E. (2018). What is a prototype? What are the roles of prototypes in companies? Journal of Mechanical Design, 140(6).
- Pierce, J. L., Kostova, T., & Dirks, K. T. (2001). Toward a theory of psychological ownership in organizations. Academy of management review, 26(2), 298-310.