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Developers Summit 2026 「Dev x PM Day」

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連続的PMFを阻む"壁"の越え方──estie PMFプレイブック

PMFの再現性を高める「3つの規律」と「5つのフェーズ」──estie流“仕組み化”の全貌

連続的PMFを阻む"壁"の越え方──estie PMFプレイブック 第2回

 PMFの達成を阻む「早すぎる売上目標」の罠。estieがその失敗から学び、築き上げた「PMFの再現性を高める仕組み」とは何か。本連載の第2回では、その核となる独自のフレームワークを解説します。「予算を課さない」などPMF前に守るべき「3つの規律(Discipline)」と、事業立ち上げからGTMまでを定義する「5つのフェーズ設計」。属人性を排し、組織としてPMFの確率を高めるための実践知に迫ります。(編集部)

序章:連続的PMFの確率は高められる

 前回の記事では、私たちestieが新規事業を立ち上げる過程で「売上を計画に組み込んでしまった結果、PMFがむしろ遠のいてしまった」という経験を紹介しました。もちろん、数字を追うこと自体は経営に不可欠な要素であり、それ自体は間違いではありません。しかし、プロダクトがまだ顧客に受け入れられるかどうか定まっていない段階で売上をKPIに据えてしまうと、本来集中すべき価値の検証が歪みます。私たちは身をもってその事実を痛感しました。

 では、どうすればPMFをより再現性高く達成できるのか。偶然や属人的な力に頼るのではなく、組織として実行可能な仕組みに落とし込むことはできないのか。この問いに向き合う中で、私たちは 「3つのDiscipline」と「5つのフェーズ設計」 を中心とした独自のフレームワークを形づくってきました。

 本稿では、その仕組みを紹介します。再現性あるPMFプロセスをつくるための原則と実践知が、読者の皆さんの新規事業開発や新規プロダクト立ち上げに役立てば幸いです。

PMF前に守るべき「3つのDiscipline(規律)」

 プロダクトの初期フェーズでは、経営層もチームも「このプロダクトに期待して大丈夫だ」という“安心材料”を求めたくなります。その結果として、売上目標を置いたり、営業チームを立ち上げたり、定期的な予実報告を求めたり──いずれもそれ自体は一見まっとうな行為に思えます。ですが、estieの経験から言えば、これらはPMF前にはむしろ悪影響を及ぼすものでした。

 私たちは今では「予算・営業リソース・説明責任」という3つを新規プロダクトにはあえて課さないというDisciplineを徹底しています。その理由はシンプルです。PMF前は顧客課題を正しく捉え、それを解決する「価値の追求」に集中すべきだからです。

1.予算を課さない

 予算を背負うと、チームはどうしても「(相手を選ばず)売れる相手に売る」という行動に引きずられていきます。前回お伝えした我々の体験でもありましたが、結果として複数のセグメントに手を広げることで、本来解決すべき課題があいまいになっていきます。そして、まだ価値が十分に検証されていない顧客にプロダクトを提供してしまい、後々のチャーンリスクを抱えるなど事業運営がより不安定になってしまうこともあります。

 予算を課すことはある種そのプロダクトやチームへの期待の表れでもあります。しかし、予算が課されたことで、「数字を守る行動」を誘発し、正しい顧客課題の特定からチームを遠ざけてしまうのです。

2.営業リソースを投下しない

 プロダクトが立ち上がりはじめ、顧客から良い反応が生まれてくると、その提供範囲を広げたいという気持ちに駆られることは誰でも抱く感情だと思います。実際、「不安定なプロダクトを営業が販売し始める」ということを各社一度は経験したことがあるのではないでしょうか。「営業を立てれば市場を取れる」という錯覚に陥りやすいですが、PMF前のプロダクトは営業効率が悪く、それどころかむやみに顧客を広げても学びは得られません。むしろ「売れない営業組織」が疲弊するリスクを抱えることになります。

 estieが重視しているのは、2つの観点です。

  • 会社リソースを無駄に使わないこと(予算を課さない以上、営業リソースも使わないのは必須条件)
  • プロダクトマネージャー(PM)自身が顧客に売り、そこで課題を抽出すること(これが最もPMFに近づく活動)

 営業が向き合うのは事業効率性の高い領域──確度の高いセグメント×価値が再現できるプロダクト──に限定すべきです。だからこそ、再現性が見えるまではプロダクトマネージャーが営業を担い、とにかく課題を抽出すべきなのです。

3.説明責任を強制しない

 経営層や他チームからすれば「定期的に新規プロダクトの進捗を報告してほしい」と考えるのは自然なことです。しかし、これは大きな負担になります。レポート業務に時間を割くだけでなく、「うまくいっていないなら既存事業にリソースを回すべきでは」といった無駄な議論を呼び込むリスクもあります。また、説明責任を果たすために「進んでいるように見せる」行動が増えれば、学習の質も速度も落ちます。

 私たちはチームのレポートラインは管掌役員の一人に絞り、その人物ただ1人を相談役として進める体制にしています。その管掌役員も他の役員に対して新規プロダクトの進捗を説明する必要はありません(もちろん四半期に一度程度軽い口頭報告をすることぐらいはあります)。

 説明責任を課さないことで不要な議論を呼ぶなど、外圧によるノイズを遮断し、学習スピードを守ることを重視しています。

Disciplineの本質

 3つのDisciplineは、単なる「やらないことリスト」ではありません。これらは、チームがプロダクト価値に集中できる環境をつくるための重要な “環境因子”です。こうすることで学習速度を最大化し、PMF到達の確率を高めることができます。短期的な安心感を犠牲にしてでも、価値の追求に全振りする。この勇気こそが新規プロダクト立ち上げの核心だと私たちは考えています。

次のページ
プロダクト立ち上げ→GTMに至る「5つのフェーズ設計」とプロダクトマネージャーの役割

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この記事の著者

久保 拓也(株式会社estie)(クボ タクヤ)

株式会社estie 執行役員 兼 マーケットリサーチ事業本部 事業責任者 早稲田大学卒業後、博展に新卒入社。2013年にリクルートに転職し、HR領域でGM、拠点長などを経験。その後、ユアマイスターに参画、資金調達や中期戦略立案を推進し、プロダクト及び事業責任者として従事。2022年8月に株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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