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Developers Summit 2026 「Dev x PM Day」

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特集記事

脱プロダクトアウト思考──開発段階から顧客を巻き込み、リリースと同時に契約を勝ち取るまで

テックタッチの「AI Central Voice」が実現した、顧客共創型プロダクト開発の実践事例

3.リリース時点で「すでに使われている」状態へ──共創型開発の成果

 上述のような「共創型開発」によって、「AI Central Voice」はリリース時には、すでに顧客の現場で活用が始まっている状態を実現していました。どうしてお客さまはまだ実績もない新サービスに期待して、契約をしてくれたのでしょうか。それは、お客さま自身が業務変革を自ら実感できたことが大きいと思っています。

 顧客訪問をした先で業務フローを共に描き直し、「現行フロー」と「理想的なフロー」を対比させ、そこにAIを組み込むことでどのように変革されるのかをイメージしてもらいました。特に前述のコールセンターでは、「転記作業が消える」「システム切り替えが不要になる」「顧客の声を分析・活用できるようになる」未来像を目で見て理解できた瞬間に、担当者の表情が変わったのを覚えています。

 このように業務変革を自ら実感できたことで、PoC止まりで終わらずに導入へと進みました。契約を交わすよりも先に「この業務をどう変えたいのか」という共通の目的を持つことを重視し、伴走し続けることが大切です。

4.プロダクト視点から見た「顧客共創」の設計論

 上述の顧客共創は「たまたま協力してもらった」という偶発的なものではなく、プロダクト開発のプロセス自体に組み込まれた設計思想でした。

 従来型のプロダクト開発とAI時代の開発には、アプローチの根本に明確な違いがあります。

 従来はPoC重視で、まずは「試しに動くものを作る」ことが優先されていました。要件定義は社内で完結し、顧客の現場に深く入る機会は限られる。MVPの構築には時間とコストがかかり、検証サイクルも遅くなりがちでした。

 AI時代は、MVPを小さく・早く作れる環境が整いました。しかし、そのスピードが逆に「表層的な顧客理解のままプロトタイプを量産してしまう」という落とし穴に陥りがちです。成功の鍵は、単なるスピードではなく、ユーザー憑依で得た深い洞察をMVPで素早く試し、共創の仕組みで本番へと橋渡しをすることにあります。結論として、「作るスピード」ではなく「憑依の深さ」が差を生む要因になると思っています。AI時代のプロダクトマネージャーにとって重要なのは、誰よりも早く試作することではなく、誰よりも深くユーザーを理解し、その理解を共創の場に持ち込むことです。

開発アプローチの比較(従来型 vs 共創型)
開発アプローチの比較(従来型 vs 共創型)

5.成功要因と再現性──「売る前に、使われている」が、AI時代の事業開発の新常態

 これまで「AI Central Voice」の事例から、AI時代の事業開発におけるポイントとプロダクトマネージャーの役割を改めて整理してみます。

1.ユーザー憑依によって解くべき課題を明確にする

  • 観察・体験・分析を通じて顧客業務を深く理解し、お客さまでも気づいていない課題を客観的に特定し、AIによって実現できる「業務変革」をイメージしてもらう。

2.顧客を巻き込んだ開発設計プロセスにより、PoC止まりにさせない

  • MVPでリスクを抑えつつ、本番仕様を前提に改善を繰り返す。これにより検証は導入の自然な前段階となる。

 上記を実現させるために、プロダクトマネージャーは、社内調整役にとどまらず、一次情報への憑依を徹底し、AIの可能性と限界を翻訳できる存在になることが大事だと思います。

 AI時代の事業開発においてプロダクトマネージャーが持つべき視点は、技術検証よりも「使われること」を先に設計すること。ユーザー憑依とMVP高速検証を両輪で回し、顧客共創をプロセスに組み込むことです。

 AIによって「作る」ことのハードルはかなり下がりました。しかし、だからこそ「顧客を本当に理解し、共に作ること」が以前にも増して求められています。プロダクトマネージャーの新しい挑戦は、「売る前に、すでに使われている」をどう設計するか。この一点に集約されます。

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この記事の著者

中出 昌哉(テックタッチ株式会社)(ナカデ マサヤ)

テックタッチ株式会社 取締役CPO/CFO AI Central 事業責任者 テックタッチでは、「AI Central」(AI技術を活用した新規事業開発を担う専門組織)の事業責任者としてAI戦略をリード。プロダクト戦略責任者(CPO)および財務責任者(CFO)も担う。一般社団法人日本CPO協会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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