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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

デブサミ2026の初日をProductZineとコラボで開催。

Developers Summit 2026 「Dev x PM Day」

Developers Summit 2026 「Dev x PM Day」

「プロダクトマネージャーカンファレンス 2025」レポート(AD)

生成AI時代のPMは生産量より生産性を追え──エムスリー山崎氏が明かす、ホームランを量産する7つのステップ

「デジスマ診療」に見る圧倒的成果

 このフレームワークの実践例として、山崎氏自身がプロダクトマネージャーを務めた「デジスマ診療」が紹介された。

 医療機関の予約、問診、診療、決済をシームレスにつなぐこのプロダクトは、初期には少数施設での検証から始め、MVP開発、PMF(プロダクトマーケットフィット)を経て拡大していった。

 山崎氏は「前回登壇したpmconf 2023で発表した時点でも十分な成果だったが、そこから2年間、プロダクトサイクロンを回し続けた結果どうなったか」と前置きし、1枚のスライドを投影した。そこに示されたグラフは、PMF完了時から約40倍、さらにそこから指数関数的な急成長を描いていた。

デジスマ診療の成長グラフ。指数関数的な伸びを示している
デジスマ診療の成長グラフ。指数関数的な伸びを示している

 「とんでもないことになっている。プロダクトサイクロンを回し続けることで、これだけの成長が実現できるのだ」(山崎氏)

 このフレームワークは、プロダクトだけでなく「チームビルディング」にも応用可能だという。候補者を探し、選び、語り合い、共に働き、育て、役割を託してチームを強化する。プロダクトサイクロンは、組織とプロダクトの両方を「竜巻」のように巻き込みながら成長させる強力な武器となる。

【Q&A】プロダクトを「託す」判断と組織のスピンオフ

 セッション終了後、会場のコミュニケーションエリアで行われた「Discuss with the Speaker」では、参加者からより具体的な質問が投げかけられた。特に質問が集中したのは、プロダクトサイクロンの第6ステップ「託す(Delegate)」に関する判断基準と、それを支える組織論についてだった。

車座で聴講者の質問に答える山崎氏
車座で聴講者の質問に答える山崎氏

自分で走り切るか、他へ「託す」か。判断の分かれ目

──「託す」の判断が難しいと感じました。自分たちで最後まで走り切るべきなのか、他へ渡すべきなのか、その見極めはどうされていますか?

 「これは子育てにも似ている。『いつ子どもを自立させるか』という悩みと同じだ。重要なのは、『今の金脈を掘り続けるか、次に行くか』の二択ではなく、『誰かに任せた方が会社全体として儲かるのではないか』という第三の選択肢を常に持っておくことだ。

 プロダクトの成長には『S字カーブ』があり、ある程度成長すると限界効用が逓減(ていげん)してくる。改善の効果が薄れてくるフェーズに、エース級のチームが張り付いているのは、全社視点で見れば機会損失でしかない。

 今のプロダクトを誰かに引き継ぎ、安定的な利益を生む状態にしておいて、自分たちは次の新しい油田を掘りに行く。その方がトータルでの生産性は高まる。『今までのような爆発的な成長ではないが、安定して利益が出る』状態にして、いい意味で妥協して預けるのだ」(山崎氏)

プロダクト劣化を防ぐ「人ごと託す」戦略

──他のチームに託した結果、プロダクトの品質が落ちたり、単なる保守作業になってしまったりする懸念はありませんか?

 「そのため、われわれは『人ごと託す』という方法をとることが多い。

 コアチームでその機能を担当していた一番詳しいメンバーを、プロダクトとセットでスピンオフさせるのだ。漫画の『外伝』を作るように、特定の機能を独立させ、そこに詳しいメンバーを配置転換する。

 エムスリーでは、3か月程度のプロジェクトであれば『サブチーム』ごと移動させることもある。自分たちが『台風の目』として入り、人を育て、その人を別のグループ会社へ、さらにまた別の場所へと弾き出していく。こうして、やり方の分かる人材を『成功モデルの伝道師』や『組織変革の核となる存在』として増殖させていくのがわれわれのスタイルだ」(山崎氏)

「温帯低気圧」と「海水温上昇」による組織の代謝

──成長が落ち着き、保守的になったチームのモチベーション管理はどうしていますか?

 「成長が落ち着いたチームは、サイクロンに例えれば『温帯低気圧』になった状態だ。平和で穏やかな状態であり、それはそれで良いとしている。『キャッシュカウ』としてお金を生み出し続けているならば問題ない。

 ただし、そこに技術的負債が溜まってきたら話は別だ。そのときは『海水温の上昇』を起こす。

 具体的には、CTOクラスのトップエンジニアをそのチームに投入するのだ。『この負債を3か月で解消してくれ』と強烈なエネルギーを注入することで、そこでまた新しい回転が始まる」(山崎氏)

カニバリゼーションを回避する「2次元ロードマップ」

──多くのプロダクトをスピンオフさせていくと、ユーザーの可処分時間や画面スペースを取り合う「カニバリゼーション」が起きませんか?

 「もちろん起きる。だが、われわれは『2次元ロードマップ』のような考え方で、市場を面で捉えている。

 例えば縦軸に『診療プロセス』、横軸に『対象者(医師・事務・患者)』をとると、一見カニバリゼーションに見えても、面全体で見ればまだ空白地帯(スカスカな部分)の方が多いことが分かる。

 拡張可能な世界観を最初に設計しておくことで、中央のサイクロンが回ることで生まれた新しいプロダクトが、自然と空白地帯へ移動していくようにしているのだ」(山崎氏)

1000億円の野望が「部分最適」を打破する

──複数のサイクロンが同時に回っていると、部分最適に陥ったり、チーム間で利害が対立したりしませんか?

 「小さい回転で見るとどうしても部分最適になりがちだ。それを乗り越えるために、われわれは『高い目標設定』を行っている。

 例えば、私の年間利益目標は今1000億円だ。そうなると、細かい部分最適で争っている場合ではない。全員で高い目標を掲げると、『今のままでは届かない』『全員がサイクロンを回して生産性を爆発させなければならない』という意識で統一される。

 現実的な目標とは別に、大いなる野望としてのストレッチ目標を共有することで、視座を引き上げているのだ」(山崎氏)

エムスリーではプロダクトマネージャーを絶賛募集しています!

 エムスリーでは社会課題に挑戦したいプロダクトマネージャー、エンジニア、デザイナー、QAなど、プロダクト開発職種を募集しています。皆で学び、結果を出すことで成長できる環境です。本記事で興味を持たれた方は、エムスリープロダクト開発職種採用サイトから、是非ご応募ください。

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテック...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:エムスリー株式会社

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