「SaaS is dead」の衝撃と、AI Nativeへのパラダイムシフト
Helpfeelは、AI検索型FAQ「Helpfeel(ヘルプフィール)」をはじめとするAIナレッジデータプラットフォームを提供する企業だ。同社代表取締役 CEOの洛西一周氏は北米拠点の基盤構築のため、2026年1月から3月までシリコンバレーに滞在し、現地の投資家やGAFAMの従業員と議論を交わしてきた。
「SaaS is dead」、あるいは「アンソロピック・ショック」。現在、シリコンバレーを席巻しているのは、既存のSaaS企業の株価低迷と、それに相反するAIスタートアップ投資の熱狂だ。洛西氏は「AIの進化によって、これまでのソフトウェアが簡単に作れるようになってしまったことが引き金だ」と指摘する。
この市場環境において、企業は大きく「従来のSaaS」「AI搭載SaaS」「AI Native SaaS」「AIモデル企業」の4つに分類されるという。
ここでプロダクトマネージャーが注目すべきは、既存プロダクトにAI機能を部分的に組み込んだ「AI搭載SaaS」と、最初からAIをコアに構築された「AI Native SaaS」の違いだ。従来のSaaSが1ユーザーあたりの「シート課金」を前提としていたのに対し、AI Native SaaSはAI自体がエージェントとして自律的に業務を遂行するため、課金モデルの根本的な見直しが求められている。
投資家が注視する「AIトークン比率」と事業モデルの転換
シリコンバレーの投資家たちが、AIスタートアップを評価する際に用いる新しい基準がある。洛西氏が現地で最も衝撃を受けたという問いが、「AI利用料金(トークン)にどれくらい払っている? 人件費と比べてどう?」というものだ。
従来のSaaS企業における原価はサーバー費や人件費だったが、AI Native SaaS企業では「人件費の代わりに、AIがどれくらい働いているか」が直接的に問われている。この比率が高いほど、AI化が進んだ企業として市場から評価される構造へと変化しているのだ。
これに伴い、顧客への提供価値も劇的に変化している。洛西氏は、「ソフトウェアを利用して顧客が実務を行う」という従来のモデルから、「AIが実務を行い、その成果に対して顧客が対価を支払う」サービス事業への転換が起きていると説明する。ソフトウェア事業者がAI化してサービス事業者に転換することで、TAM(獲得可能な最大市場規模)は飛躍的に拡大すると洛西氏は強調する。
プロダクトマネージャーはもはや、「ユーザーが使いやすいツール」を作るだけでなく、「AIが自律稼働して成果を出すエージェント」を設計し、それに見合った事業モデルを構築しなければならない。
国産のAIモデルの生存戦略と「現場力」の価値
こうしたグローバルなパラダイムシフトの中で、日本のAI企業はどのように戦うべきか。カスタマーサポート特化型のAI SaaSを展開し、独自のAIモデル開発も手がけるカラクリ。同社取締役CPOの中山智文氏は、経済産業省の生成AI開発支援プログラム「GENIAC(ジーニアック)」を通じた国産のリアルについて語った。
QwenやDeepSeekなど、高性能なオープンモデルが無料で使える中、わざわざ国産で作る意味はあるのかという批判もSNS上にはある。しかし、経済安全保障の観点や、防衛・金融・医療といった「自前であること自体が価値」となる領域に加え、汎用LLMでは要件を満たしにくいバーティカル(業界特化)領域では、独自モデルが強力な競争力を持つ。実際、海外でもカスタマーサポートに特化したDecagonや、自動運転に特化したWayveなどが巨額の資金調達を行い、ユニコーン企業へと成長している。
ここで日本の独自の勝ち筋となるのが、トヨタ式「カイゼン」に代表される「現場力」だ。中山氏は、「巨大汎用モデルが一部の天才たちによって作られるのに対し、特化型モデルは現場の力によって磨き上げられる」と述べる。カスタマーサポートにおける敬語のささいな使い方や、法規制を守るための絶妙な言い回しなど、現場で積み上げられた質の高いデータと特化型AIを組み合わせることで、国際的にも競争力のあるプロダクトを生み出せるという。
