特に念入りに進められた「テスト」「リリース」「改善」フェーズ
「テスト」フェーズでは、ユーザビリティと機能の両面からテストを行った。特にユーザビリティの検証には「ユーザーへのオンラインインタビュー形式でのテスト」「社内のエキスパートによるウォークスルー形式のレビュー」「サービス担当者によるウォークスルーテスト」「有志の社員によるアドホックなテスト」といった形で、さまざまなケースとシナリオに対応できるよう、入念なテストを実施したという。
ユーザーへのオンラインインタビューは、前出の「Yahoo!メールサポーターズクラブ」のメンバーに、新しいPC版Yahoo!メールを実際に見てもらったり、使ってもらったりしながら、その感想をフィードバックしてもらうというものだ。
「社内のエキスパートによるウォークスルーレビュー」は、今回のPC版Yahoo!メールのリニューアルに限らず、新規サービスの立ち上げや、ユーザー体験が大きく変わるような既存サービスへの機能追加がある場合などに実施されているもので、ヤフー社内で体系化が行われている。
エキスパートレビューでは、1つの案件に対し、担当サービス外の社内エキスパート4名が、担当者が用意したウォークスルーシナリオを実施し、課題を抽出する。エキスパートによるチェックは「効果」「効率」「満足」の3つのポイントを中心に行われ、抽出されたそれぞれの課題についてはユーザーへの影響度を「大・中・小」の3段階で判定する。その結果を元に、サービス担当者が対応方針を検討し、事業責任者による承認を受けた後に、リリースが可能になる。なお、エキスパートレビューの結果は、定期的に経営層にもレポートされており、必要に応じて、サービス横断的に対応指示が出るケースもあるという。
また、機能テストについては人の目による見落としを避けるため「自動テスト」「スクリーンショットテスト」なども並行して行っているとした。
リニューアル後の「リリース」も、ユーザーがなるべく戸惑わないよう、配慮しながら実施された。新UIのリリースは、全ユーザーを8つのグループに分けたうえで、3か月をかけて段階的に行った。また、提供開始後も、ユーザーの希望に応じて従来のデザインで利用できる併用期間を設定した。
リリース後の併用期間には、ユーザーの反響を見ながら「改善」を行うフェーズを設けている。通常の問い合わせフォームに加えて、画面上の目立つ部分にアンケートフォームを設置し、そのフィードバックから、従来のデザインをクローズする前に実施すべき改善のポイントを検討した。
「新しいUIには『見やすくなった』『古くさくなくなった』といったポジティブな反応があった一方で、『以前にあった機能がなく、使いづらくなった』というネガティブなフィードバックも寄せられた。リニューアルで削除した機能もあるため、そうしたフィードバックに対しては、代替で利用できる機能があれば案内し、代替できる機能がなく必要性が高いと判断したものについては、追加の改善を実施している」(星野氏)
2021年12月までにフィードバックに基づいて改善した機能としては「特定条件によるメッセージの絞り込み」「メールボックスを切り替える左カラム部の折りたたみ」「右ペインのメール一覧と本文表示部を一緒にスクロールする機能」などがあるという。
「ユーザーの声を聞き、開発側の想定と大きなギャップがあった部分については、迅速に改善を行う取り組みを継続している」(星野氏)
星野氏は「PC版Yahoo!メールのリニューアルは、ユーザーの多い大規模なサービスに、他のサービスと一貫性のある機能やデザインを持たせながら、従来の使い勝手についても、できる限り壊さないようにすることが求められた点で、絶妙なかじ取りが必要なプロジェクトだった。今後も、ヤフーのサービスとして一貫性のある、より使いやすいUI/UXを提供していきたい」と述べて、セッションを締めくくった。