- 書籍『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』
- 書籍『チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで』
- 書籍『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー 組織のデジタル化から、分断を乗り越えて組織変革にたどりつくまで』
- 前回の記事:第2回「「分かっている」と「そうかもしれない」の区別がついていますか?はじめてのプロダクト・ジャーニー】」
仮説の元となる「情報」の深さの違い
この物語の主人公は、プロダクトマネージャーを志望する名越(なごし)さん。新たにプロダクトを作り始めるために結成されたチームに所属しています。
名越(なごし)
この物語の主人公。もともとは大きな企業にいたが、プロダクトマネジメントの経験を積みたくて転職してきたプロダクトマネージャーの見習い。ソフトウェア開発の経験はほとんどない。
チームメンバーは同期の小袋(こぶくろ)くんと、後輩の朝比奈(あさひな)さんの3名。それから、進みが思わしくないこともあり、マネージャーの袖ヶ浦(そでがうら)さんも参加するようになっています。まずはプロダクトの仮説を立てるところからですが、袖ヶ浦さんからはダメ出しをもらう日々が続いています。
「この仮説では、中身が浅すぎます」
袖ヶ浦(そでがうら)
元役員で、時間ができたからチームの面倒を見ることになった。冷たい雰囲気が漂う。
また袖ヶ浦さんからダメ出しをもらってしまった。もう何度目か分からないくらいだ。前回、「分かっていること」と「想像でしかないこと」を切り分けて、仮説キャンバスを表現しようと教わったのだけど、また評価に値しなかったみたいだ。僕は袖ヶ浦さんに返す言葉を失ってしまった。
「えー、またですか? 袖ヶ浦さんの教えどおりに作っているつもりなんですけど」
朝比奈さんもさすがにうんざりを通り越して、驚いた声を上げた。何か足りないことがあればいっぺんに言ってほしい、そんな不満が顔に分かりやすく出てきている。
朝比奈(あさひな)
チームの中では最年少。ソフトウェア開発の経験はなく、デザイン制作を少しかじっている。ひときわ明るい声がチームのムードメイカーになっている。
「……」
いつもは袖ヶ浦さんの指摘に一定の理解を示す小袋くんも僕同様に返す言葉が見つからないようだ。僕たち3人は、すっかり黙り込んでしまった。袖ヶ浦さんとの延々と続く壁打ちに不信感にも似た気持ちが芽生えてきている。
小袋(こぶくろ)
名越より年下だが同じ時期に転職してきたプログラマーで、同僚。口数は少ないが、自分の意見はしっかり言うタイプ。
「皆さんは、この仮説キャンバスを書くために何をしましたか」
「インターネットで企画に関連することを調べました。関連ワードで検索して、記事とかニュースをあさってみたりです」
「……それだけですか」
僕たちは顔を見合わせた。
「仮説を立てるためにはまず元となる情報が必要になります。何もないところから仮説が立つことはありません。思いつきのように仮説を作ったとしても、元となっているのは自分自身のそれまでの経験や頭に残っている記憶などです。何を元に仮説を作っているか。良いアウトプットを生み出すためには、源流からです。その情報元にもレベル感があります」
仮説の元となる情報をどのように獲得するか
レベル1:デスクトップリサーチによる
机上で得られる情報が中心。インターネットの情報はもちろん、業界や公的機関のレポート、市販書籍など。外部だけではなく社内で既に実施されている調査のアウトプットなどもリサーチの範疇に含まれる。このレベルの調査を行っていないようでは話にならない。
レベル2:足で稼いだ調査結果
既にある情報を得るだけではなく、自分たち自身で情報を作りに行く。想定している顧客やユーザー、あるいは業界や業務について詳しい専門家へのインタビュー(エキスパートインタビューと呼ぶ)や、想定顧客自身へのヒアリングなど。
レベル3:仮説検証の結果で得られた学び
仮説検証によって得られた結果を元に新たな仮説を立てる。検証を実施するためには、レベル1〜2の調査を先立たせ、まず仮説を立てることから始める。
「レベル1はかかるコストが低く、企画のごく初期段階においてまず広範囲に情報を得るために行うものです」
「あちゃ〜、私たちがやっていたのはせいぜいレベル1ですね」
「レベル1も、僕たちはまだ十分とは言えないかもしれない。インターネットで少し調べた程度だから、それ以外の探索はまるで足りていない」
「きっと、袖ヶ浦さんはレベル1はもちろん、レベル2のことを指摘されていたんですね」
僕の言葉に袖ヶ浦さんは静かにうなずいた。確かに、僕たちはいわゆる「足で稼ぐ」みたいな調査は行っていない。僕たち3人の中での討議に終始し、他の関係者や社外へのヒアリングなんて考えてもいなかった。