組織・プロダクト・個人のすべてに目標設定が必要な理由
フォード・モーター・カンパニーでソフトウェア開発をけん引するプロダクトマネージャーのジョシュア・ギルバート氏と、同社の顧客体験の最適化を担う研究所「FordLabs」に所属するプロダクトマネージャー マイケル・レイズ氏。
2人が所属するFordLabsは、フォード社内のビジネスグループと連携し、ソフトウェア開発、ひいてはプロダクト開発を加速させることをミッションとする。60人程度のチームで、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナー、エンジニアで構成されているという。このチームの特徴としてレイズ氏は、「リーン・スタートアップのアプローチと、デザイン思考の技術、アジャイルの手法を組み合わせていること」を挙げた。
レイズ氏は「私たちのOKR導入の実践を踏まえて、学んだこと、成功、失敗などを共有したい」と話しセッションを始めた。
まず、なぜ目標設定が重要かを説明する前に、ギルバート氏は参加者に「あなたの会社の目標は何ですか?」と呼びかけた。同氏は、OKRに限らず、そもそも一般的な目標設定が大事な理由を、会社、プロダクト、個人の3つのレベルの目標設定に分けて説明した。
まず会社レベルの目標設定は、組織全体を共通の目標に向けて足並みをそろえるために重要だ。複数の部署やチームを結び付け、会社のために何を達成するべきか理解することで一致団結できる。また目標を設定し達成するという「文化」を浸透させることもできる。
また、プロダクトを会社全体の目標に沿ったものにするため、プロダクトレベルの目標も重要だ。プロダクト目標があることで、チームのメンバーは個人ではなくプロダクトで達成すべきことに集中できる。
そして個人目標は、まずモチベーション維持のため重要と言える。ギルバート氏は新しい言語を学ぶ時を例に挙げ「学習目標を設定していないと、他の用事があって時間が限られるなどの理由で、学習を続けるのは困難でしょう」と説明。目標は、自分のやりたいことを明確にし、時間の優先順位付けに役立つのだ。
OKRとは何か?
では、実際にどのように目標を設定すればよいのだろうか。年初に、その一年間でやりたいことを目標として設定することは簡単だ。しかしそれだけでは意味はなくそれを「達成する方法」も考えなければならない。OKRはまさにこういった場合に真価を発揮する。
OKRのO(Objectives)とKR(Key Results)とは、「目的」(O)と「主要な結果」(Key Results)と訳される。Objectivesとはつまり「達成すべきもの」であり目標、ゴール。Key ResultsはどうObjectivesを達成するかを示す重要なベンチマークだ。つまりOKRとは「何」を「どのように」達成するかを示すものである。
OKRの具体的な設定についてレイズ氏は、ジョン・ドーア著『Measure What Matters』という書籍を参考に、架空のケースを用いて解説した。ここではソフトウェアをサブスクリプションで提供しているSaaS企業を想定。例えば、「会社レベル」「プロダクトレベル」「個人レベル」それぞれのOKRは、以下のように考えられる。
会社レベルのOKR
この会社のCEOは、年始に以下のような目標を掲げ、OKRを設定した。
- Objective:日本でマーケットリーダーになる
- Key Result1:第1クウォーターに1.5万件の契約を獲得する
- Key Result2:前月比で95%の顧客を維持する
このように会社は経営指標を示して社内の各部署にカスケードダウンしていく。
プロダクトレベルのOKR
これに対してプロダクト部門では「業界をリードする機能とサポートモデルを開発すれば市場リーダーになれる」と結論を出した。
- Objective:業界をリードする機能とサポートモデルを開発する
- Key Result1:顧客からのフィードバックに基づいた新機能を毎週リリースすること
- Key Result2:新規顧客を引き付け既存顧客を維持するために、新機能を迅速にリリースする
- Key Result3:ネット・プロモーター・スコア(NPS)を70以上にする
第1クウォーターに1.5万人の契約を獲得するためには、毎月少なくとも5000人の新規顧客を獲得する必要があるため、このようなKey Resultsとなった。
個人レベルのOKR
ここでは「プロダクトマネージャーで、プロダクトの目標を達成するために組織の中で最も顧客に向き合ったPMになりたいと考えている」場合を想定した。
- Objective:組織の中で最も顧客に向き合ったPMになること
- Key Result1:週に最低10人の顧客と話す
- Key Result2:1クウォーターに4つのデザインスプリントをリードする
- Key Result3:バックログにある未完成のものの数をコントロールし限度を超えないようにする
プロダクトの目標は「業界をリードする機能を実装すること」なので、デザインスプリントをリードし、持続可能なペースでソフトウェアをリリースすることをKey Resultsとしている。
レイズ氏はこのケースをベースに、OKRを効果的に使うために重要な4つの点をひもといた。
1つ目は「フォーカス」。一度決めた優先順位に集中しコミットすること。この例では「マーケットリーダーになる」という具体的なコミットメントをもとに各組織にカスケードダウンした。こうすることで目標がぶれなくなる。
2つ目は「アラインメント」で連携を生み出すこと。社内のさまざまな部署が会社全体のOKRに向けて連携する必要がある。
3つ目は、「トラッキング」。四半期ごとにOKRを見て、それぞれのKey Resultsに対してどのように行動しているか説明できなければいけない。「もし目標の契約者数を獲得できていないことが分かったら、チームが集まって、達成のために何を変えればいいのか、そもそも正しい目標だったのか、などを検討する絶好の機会です」とレイズ氏は説明する。
4つ目は驚くべき成果を出す「ストレッチ」だ。この例でプロダクトのKey Resultとして設定された「NPSスコアが70以上」はかなりのハイスコア、つまりストレッチゴールだ。「チームの創造性を伸ばすことができるので重要」とレイズ氏は語った。
しかし、実際の会社でもこのケースのようにうまくOKRを導入し、プロダクトおよび会社の成長に結び付けられるのだろうか。実は、フォード社であっても多くの困難があったという。