書籍『プロダクトマネジメントのすべて』はどうやって生まれたか
3月20日、書籍『プロダクトマネジメントのすべて』の刊行記念イベント「『プロダクトマネジメントのすべて』から学びを深めよう」が開催された。同イベントは同書籍の著者であり、ProductZineの連載「プロダクトマネジメントの基本を学ぼう」を執筆していた3人が登壇し、プロダクトマネージャーやそれを目指す人、プロダクトマネジメントを学びたい人に向け、書籍に絡めた3つのテーマでパネルディスカッションを行った。
- 書籍というプロダクトを発刊するためにどのようなマネジメントをしたのか
- プロダクト開発における日本企業の戦い方
- 本書籍をどのように活用するとよいのか
3名の著者、及川卓也氏、曽根原春樹氏、小城久美子氏は、それぞれプロダクトマネージャーとして異なるバックグラウンドを持っている。
及川氏は外資系企業やスタートアップにてソフトウェアエンジニアやプロダクトマネージャー、エンジニアリングマネージャーとして従事。現在はソフトウェアによるプロダクト開発支援および開発に関する研修を提供するTably(テーブリー)の代表を務める。
曽根原氏は日本と米国でさまざまな役職を経験した後、シリコンバレーでプロダクトマネージャーとして大企業、スタートアップ双方で働いた経験を持つ。現在はSmartNews社米国法人のプロダクトマネージャーとして活躍している。ウェビナーは米シリコンバレーからの参加となった。
小城氏はIT企業にてエンジニア、スクラムマスター、プロダクトマネージャーとして複数の新規事業の立ち上げを経験した後、現在は及川氏と共にTablyでプロダクトマネジメントの研修事業やコンサルティングをサポートしている。
同書籍は、日本語でプロダクトマネジメントに関する体系だった本がなかったことから、著者の3人が初心者のころにあったらよかったのにと思える本を作ろうというところから始まった。また、ポイントなのが、同書籍ではプロダクトマネージャーを「PM」と略している。実は本を企画した当初はPdMと略していたが「米シリコンバレーではPdMと言っても誰にも伝わりません。だからこの本ではPMと言いましょうと、強引だけどグローバルスタンダードを持ち込みたかった」(曽根原氏)、「プロジェクトマネージャーがPMだからといって、プロダクトマネージャーがPdMになるのは悔しい。名前空間がすでに取られていても、取りにいこうと思った(笑)」(及川氏)ということから、PMにしたという。
書籍作りをどのようにプロダクトマネジメントしたのか?
最初のトークテーマ「本をどのようにプロダクトマネジメントしたか」のモデレータは小城氏が務めた。
小城:本のタイトルは「プロダクトマネジメントのすべて」です。本当に「すべて」が書かれているのでしょうか。
及川:すべてをある程度の厚みで網羅はしていると思います。すべてと言うと、幅と深さが要求されますが、この本は網羅性という意味で“すべて”になっていると思います。
曽根原:プロダクトマネジメントは日本でようやく注目され始めたところです。最初に何を学んでよいかわからない人も多い。そういう人に一歩目を示す役割を担える書籍だと思います。
小城:この本を作るにあたり、3人で進めたので、プロダクトマネージャーはいないんですよね。
曽根原:それぞれがプロダクトマネージャーということで、それぞれの観点や視点から意見を交え、お互いを高めつつ磨いていったという感じですよね。
小城:おそらく、「プロダクト(書籍)の成功の定義」を最初にそろえたことが、同じ方向を向いて進められた要因になったと思います。例えば「大切なものランキング」もその一つ。これは書籍の48ページでも紹介していますが、この本を作る上で大事にしたいことを、優先度をつけて記したものです。実はこの中にはマイルストーンを守ることと記載されていますが、当初は2020年9月に発売だったんですよね。結局、発売したのは今年の3月3日でしたが…。
ここで記載されているスケジュール以外の大切なものは、プロダクトの成功につながっていますか。
曽根原:プロダクトマネージャーは、アウトプット(成果物)ではなく、アウトカム、つまりプロダクトを使うことで、困っていた問題を解決したり、新しい情報を得られたりなど、読んでくれた人の行動が少しでも変化する、アップグレードすることにこだわることが重要なんです。この本は日本にプロダクトマネジメントの考えを普及させる貴重な一歩を踏んでいるんだという思いで取り組んでいたので、クオリティの低いものは出したくありませんでした。マイルストーンは守れませんでしたが、満足のいくものができたと思います。
及川:(刊行が)遅れた要因の一つは、執筆者が3人だったこと。3人で「私の考える最高のプロダクトマネジメント」についてしっかり議論し、そこに妥協がなかった。だから自信を持ってお勧めできるものができたと思います。
小城:エレベーターピッチも作りましたよね。より具体的であることなど、目指していたものを最初に決めたのが成功の要因になったと思います。
曽根原:そうですね。書いている最中に戻ってこられる場所があったのはよかったです。
及川:迷ったら誰ともなくここを見ましょうということができていました。
小城:最初に方針をそろえるのは、普段のプロダクトマネジメントでも非常に重要なことですからね。方針を決めた後は、「プロダクトの4階層(Core、Why、What、How)」のWhy「誰をどのようにしたいか」を定めるため、ペルソナを設定しました
曽根原:私がペルソナ作りを担当したのですが、現在は基本米国で活動しているので、日本のプロダクトマネージャーとの直接の関わりがあまりなく、こうだろうというイメージでペルソナを作りました。その後、お二人と一緒に考えたことで、地に足のついたペルソナに仕上がったと思います。
小城:原稿を書くうえでどんな場面でペルソナを意識しましたか。
曽根原:言葉遣いですね。自分が日頃、仕事で使っている言葉を使いがちでしたが、そうすると経験者しかわからない文章になってしまいます。そういう表現は直しました。
及川:私は難易度やレベル、そして使う単語ですね。この単語を説明するかどうかについても、ペルソナを意識しました。
小城:最初に決めたスケジュールと比べると、リリースがかなり遅延してしまいました。その分、こだわり抜き、よい書籍ができたと思います。ときには計画通りに進まなくても、こだわり抜くことも大事なんだということを学びました。