プロジェクトを笑顔で終えるためのさまざまな要因と工夫
この結果に竹下氏、関川氏は驚き、その要因を調査した。リプレースプロジェクトで起きていたポジティブな要素の一つに、ユーザー理解が非常に高いメンバーがいたことが分かった。このメンバーは自分もユーザーとしてサービスを利用しており、従来のビデオチャットのUIの問題点を長文にまとめてデザイナーに直接持ち込むなど、熱心に取り組んだ。その行動により、データからは見えないユーザーの不満が明確になり、他のメンバーもユーザー理解が進むとともに、この機能開発をより身近で、自分ごととしてとらえるきっかけになった。
もう一つのポイントは、メンバーが「神アプデと呼ばれたい」というモチベーションを持っていたことだ。メンバーを集めたキックオフ時のランチ会でプロダクトオーナーがプロジェクトの目的を説明した際、自然と「神アプデ」という言葉が出てきた。この言葉がチームの士気を高め、困難な状況でも乗り越える力となった。
キックオフ時にメンバー全員が集まって行う、通称「キックオフランチ」。ここでユーザーに喜ばれるプロダクトを作るという目標を共有した。これにより、お互いを理解し、一蓮托生の関係を築くことができた。また、テストについてもテスト専門チームだけでなく、エンジニアやデザイナーなどを含めた全員で品質チェックに関わり、多様な環境での使用体験を考慮したテストを実施した。「成功のために分掌を越えて一致団結すること」。これがプロジェクトの成功に寄与した。
分掌をビヨンドボーダーしたシーンは他にもある。当初はプロダクトマネージャーが大量の要件を更新していた。しかし、手が足りず、そのことが開発のボトルネックになってしまったことがしばしばあった。竹下氏が「このぱつっている状況で、開発に支障をきたしてまで、なぜプロダクトマネージャーだけが仕様を書かなければならないのか」と疑問を呈したことで、仕様は皆で決めたことをアップデートするのだから、書ける人が書けばいいというルールができた。
この体験をもとに、竹下氏は別のプロジェクトでも再現性を高めるポイントを振り返った。ユーザー理解の壁を乗り越える工夫、メンバー同士が腹を割って話せる環境の工夫。そして、チャレンジしているチームに対して「俺も手伝うよ」と応援される環境を作ることが、プロジェクトのモチベーションを高め、結果的に品質につながる。竹下氏は「この手法を型化して他のプロジェクトにも取り入れるべきだと考え、現在実践しています」と説明した。
さらに竹下氏は、他のプロジェクトにも役立つポイントをいくつか紹介した。その一つが、ユーザーとの雑談の機会を持つことだ。ココナラでは月に1回、ユーザーを会社に招待してイベントを行うことがある。フォーマルなイベントだけでなく、ユーザーと飲んで食べるカジュアルな場もある。こうした場では、かしこまったインタビューでは得られないユーザーのプロダクトの使い方や、苦手な点などのインサイトを得られる。
竹下氏は「雑談の機会を持つことは、ユーザーインタビューと併用することで、より多くの有益な情報を集められます。可能であれば、ぜひ取り入れてほしい」と述べた。
ユーザーがいつでも気軽に意見を言える環境も提供し、問い合わせのハードルを低くしている。ユーザーの問い合わせはサポートセンターへのメールなどで行われるが、ココナラのサイトでは全ページの右下に「ご意見ボックス」が設置されている。ユーザーはTwitterでつぶやくように気軽に意見を投稿できる。「ご意見ボックス」はSlackとも連携しており、365日24時間、開発関係者全員に届く。
竹下氏は、プロジェクトの内容を大きく改善するキックオフランチの重要性を改めて唱えた。プロジェクト開始前に、実装者からQA担当者まで全員が集まり、豪華なお弁当を(会社経費で!)食べる。このランチの際、今後の開発での関係性を考慮しながら、席の配置にもこだわり、事業責任者やプロダクトマネージャーがプロジェクトの意義をプレゼンする。また、仲間を知るためのクイズなどを行い、普段はリモートワークが多い中でもオフラインで会話する機会を作ることが重要だとした。
また、プロジェクトの前段階で開発マインドをそろえる取り組みも行っている。プロジェクトコアバリューと呼ばれる、16の合言葉で構成される開発行動規範を作ったのだ。この規範にのっとって仕事をすることが、人事評価にもつながるように設計されている。
竹下氏はプレゼンテーションの最後に「プロダクトを作るプロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアが『どんな開発チームでありたいか』をしっかりと話し合う機会を持つことが非常に重要だと考えています。私たちのスローガン『ユーザーへ最速で最高の価値を』をチーム全体で守ることで、足りない点や問題点を話し合えます。まず、チーム全員で目標を決めることが、開発において非常に大切だと思います。ぜひ近くのエンジニアやマネージャーを巻き込んで、どのようなプロダクトを目指すのか一度話し合う機会を持っていただければと思います」とコメントした。