業務には「ふわっとした領域」が結構ある
いずれの事例も、いわゆる「デザインツール」の領域にとどまらずさまざまな形でFigma/FigJamが活用されている。関口さんは、これらの事例におけるコミュニケーションデザイナーの動きを「フレームワークを、案件ごとに都度工夫して作る」こと、また「そこにステークホルダーを集めて、プロジェクトを推進している」ことであると指摘する。
「みんなプロジェクト単位のなめらかさを意識して仕事を進めていて、それはわれわれの領域において非常に大事なことであると言えます」(関口さん)
ではなぜそこにFigma/FigJamなのだろうか。関口さんはそのポイントとして、幅広い用途が作業者を限定せずシームレスにつなげられること。また、周囲を巻き込みやすく、ツールを使える・使えないで二分しないこと。そして、詳細に設計して作り込むことができるのと同時に、シンプルなホワイトボードとしても使える自由度があることを挙げた。
「「場」の使われ方を先に決めなくてもいいという、拡張性が大きなポイントだと思います。データをいかに堅牢に作り、運用するかも大事ですが、実は業務の中にはそうではない「ふわっとした領域」が結構あるのではないかと考えています」(関口さん)
「これは私個人の考え方ですが、われわれデザイナーの成果物の先には、必ず製造や実装といったプロセスがあります。われわれにとっての成果物とは、中間成果物でありプロトタイプです。つまり、デザインは「仮説」をつくる行為と言えます。ということは、デザインツールは「設計室」、現代でいう「プロジェクトルーム」と捉えてもいいのではないでしょうか」(関口さん)
広さも設備も千差万別で、チームによって使い方も大きく異なる現実世界のプロジェクトルームのように、Figma/FigJamがさまざまな形でプロジェクトを進める「場」になっていることがうかがえる事例となった。
全員がFigmaを使いこなせなくてもいい
今回紹介された活用事例について、ウェビナー参加者から寄せられた質問の一つに次のようなものがあった。
「チームみんなで機能を使いこなさないと事例のような場を作れなさそうですが、どのように広めていきましたか?」
植田さんが所属するプロダクトデザイン本部では、ワークショップを実施して全体的な使い方を学ぶ場を設けたり、SmartHR UIを使ったモックアップ制作を体験できるテンプレートファイルを作成したりして、エンジニアに実践してもらっているという。これによりFigmaのUIやツールの使い方の理解が進み、テクニカルな課題の自律的解決に役立っているそうだ。
一方、ビジネスサイドのメンバーとのコミュニケーションが多い関口さんは、あえて使い方を広めることはしないものの、接触する回数を増やすことを意識しているという。使える・使えないに関わらずFigma/FigJamの「場」に入ってもらうことを重視し、コミュニケーションはSlackでも会話でも構わない、というスタンスだ。同時に、デザイナーの側も各種ドキュメントやスプレッドシートなど、ビジネスサイドで使われる「場」に積極的に参加しているという。
企業がプロダクトを開発し成長していくためには、開発チーム内の連携はもちろん、マーケティングやコミュニケーションデザインとの連携も必須だ。同社のスタイルをすべて踏襲することは難しいかもしれないが、部分的なチャレンジにも今回ご紹介いただいた事例は参考になるだろう。