PMF成功のカギ──個人の魂にbetするという考え方
新規プロダクトが思うように伸びないとき、議論はたいてい次の2つに分かれます。
- 市場(課題選定)がそもそも存在しなかったのか
- やり方(実行)が間違っていたのか
ここでよく起こる失敗は、両者をグレーのまま混同し、どちらにも薄く手を打って「検証はした」と判断してしまうことです。結果として本当は市場があるのに出口を見つけきれずに撤退する、あるいは市場がないのに小さな売上が立ったことで撤退が遅れる──といった中途半端な終わり方が起こります。

「市場vs実行」をクリアに切り分ける
私たちが検証を終了するときの理想は、「やるべきことはすべてやり切ったが、それでも有効な打ち手が残っていない」という状態、すなわち「市場がない」と腹落ちしたときです。
反対に、「やり方が浅かったかもしれない」というモヤモヤを残したままでは、学習も再現性も得られずに終わってしまいます。
判断軸 | 具体的な問い | 望ましい着地点 |
---|---|---|
市場があるか | ペインは定量でどれだけ深いか/既存代替手段は何か | データ・事例で「ある/ない」を言い切れる |
実行が適切か | 最適チャネルで顧客にリーチしたか/提案価値は刺さったか | 主要施策をやり切ったうえで「届いた/届かなかった」を判断 |
成功の裏にあった「やり切る力」
どの企業であったとしてもプロダクトがPMFに至ったのは、次の2つが両方満たされたからだと言えます。
- 市場が確かに存在した(あるいは創出できた)
- 最適な施策を、心血を注いでやり切った
最初のプロダクトをPMFさせた頃を振り返ってみれば、当時は機能開発から営業同行、導入サポートまであらゆる時間を使って顧客の課題に張り付いていたはずです。「必ず解く」という個人の執念が、施策の質と量を押し上げていたことは間違いありません。
estieが選んだアプローチ:個人の魂にbetする
こうした経験を踏まえ、私たちは重要な意思決定において「個人の魂にbetする」という方針を明確にしています。市場の存在は、取り組む前に完全には証明できません。しかし「やり切る」ことは自分たちでコントロールできます。具体的には以下のような体制を敷いています。
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オーナーを1名に固定する
- PMまたはBizDevがP/Lも担い、「どの市場で何を証明するか」を最後まで責任を持って語れる状態にする
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学習KPIを本人が設定・更新する
- 先行指標や検証方針については自ら定義し推進する
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撤退ラインはオーナーの魂がついえた時
- 撤退についての主たる要素は、オーナーの火が燃えているかがポイント。「火を絶やさない仮説が絶えず設定され前進しているか?」を管掌役員と会話し続ける形。撤退する場合も、最終的には期限を決めて走り切りクローズさせる
私たちestieではこの思想を意図的に運用し始めてから、新規プロダクトの検証サイクルは短くても濃いものになり、撤退・ピボットの判断もスムーズになりました。成果が出るまでの期間が縮まったというより、成果が出ないときの迷いが減ったという感覚に近いかもしれません。
おわりに
連続的PMFには、さまざまな壁が存在します。それらを成功させる一歩目は、プロダクト学習ループの安全地帯を確保しつつ、魂を燃やせる個人に大胆な裁量を渡すことだと考えています。
後半部分はやや思想的な部分が強調されましたが、次回以降は、こうした取り組みから得られた学習をもう少し体系的に扱っていきたいと思います。第2回は「連続的PMFに向けた3つのDisciplineと5つのフェーズ設計」に落とし込み、組織として再現可能にする方法を掘り下げます。