1.ジャーニーのスコープを大胆に広げる
既存プロダクトのどこでAIエージェントを活用していくのかを探す際、従来のプロダクトマネジメントのアプローチ(イシュー分解、ペインポイント特定)自体は間違っていません 。しかし、AI時代では「従来よりもジャーニーのスコープを大胆に広げること」が重要なポイントです。
その理由は明確で、昨今の生成AIの進化やAIエージェントの登場により、自動化・システム化できる幅が圧倒的に広がったからです。従来は「定型的な処理しか自動化できない」「複雑な判断が必要な作業は人間が行う前提」といった制約があり、システムで自動化できる範囲を無意識的に限定してしまいがちでした。
しかし、AIにより、この前提が大きく変わりました。非構造化データの理解、文脈に応じた判断、自動生成や自動操作といった「従来は人にしかできなかった作業」まで含めて、ジャーニー全体を再設計できるようになったのです。これにより、従来は「人がやるべきもの」と切り分けていた領域を、「改めてAIで自動化できないか?」と問い直し、改善の幅を広げることができるようになりました。
2.「AIを足す」から、「AIで再設計する」の転換
多くの場合、私たちは既存のプロダクト体験を前提に「どこにAIを組み込めるか」と考えてしまいがちです。これが「AIを足す」という発想です。
一方、ジャーニーのスコープを広げるというのは、既存の体験の枠を超えて、ユーザーが本当に達成したいことは何かを問い直し、「AIを前提にプロダクト体験全体を再設計する」という発想に至ることです 。
両者の違いを、デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)の「テックタッチ」の例で説明します。「テックタッチ」は、システム操作に困っているユーザーに対して、画面上に吹き出しや操作ガイドを配置することで、「どのように操作をすればいいか」「どんなルールで入力すればいいか」といった課題をリアルタイムで解決できるサービスです。
AIを足す発想の例
「操作ガイドを作成する」というプロセスに焦点を限定すると、「操作ガイドに記載する文章をAIで校正する」や「操作ガイドを表示する条件を自然言語で作成し、AIに設定してもらう」といった機能にたどり着きます。これらも有用ですが、あくまで「人が考え、人が作る」というプロセスの一部を効率化しているに過ぎません。
AIで再設計する発想の例
ユーザーが本当に達成したいことは、「システムの課題を特定し、その課題を解決してくれる操作ガイドを手に入れること」です。
この目標を起点に、AIの役割を業務を進める主体として再設計すると、プロセスは根本から変わります。
| 項目 | AIを前提とした再設計後の役割分担 |
|---|---|
| 1.課題特定 | 【AI】 問い合わせデータを自動で収集し、課題をリストアップする |
| 2.課題選択 | 【人】 取り組むべき課題を決める |
| 3.操作ガイドの作成 | 【AI】 課題に対する最適な操作ガイドを自動生成 |
| 4.確認・修正 | 【人】 AIが提案した内容を確認・修正し公開 |
AIがプロセスを自律的に進める前提にすることで、人が行う作業は「2.課題選択」と「4.確認・修正」の2つだけになります。単に作業を効率化するのではなく、ユーザーが本当に達成したいことを起点に役割設計を再定義することで、単なる機能追加では生まれなかった価値をユーザーにもたらすのです。
3.スコープを広げるための「想像力」という課題
しかし、この「ジャーニーのスコープを広げられるかどうか」は、プロダクトマネージャーの想像力に大きく依存されます。技術的な可能性が広がっても、プロダクトマネージャーが「何ができるのか」「何を解決できるのか」を想像できなければ、結局は従来の延長線上での発想に留まってしまうからです。
プロダクトマネージャーは、「技術的に今できること」「コストをかければ実現できること」「近い将来可能になること」の3つを理解していることが重要になります。これは、可能性の座標軸を正しく持つためです。想像力とは、技術の可能性とユーザーの文脈を行き来しながらアナロジーによって両者を結びつける力です。プロダクトマネージャーは、AI時代において「何ができるか」を常にアップデートし続け、想像力の射程を広げていく必要があります。
そのために、テックタッチで実践している具体的な取り組みを3つ紹介します。
