はじめに
2018年当時、Goodpatchが開発・運用する国産初のプロトタイピングツール「Prott」はグローバル対応と技術的負債を解消するため、フルリニューアルを計画していました。しかしリリースされることなくリニューアルプロジェクトは終了を迎えます。その後、PO/CTOの離脱や大量離職、売上が上がらない重圧などの壁にぶつかります。苦しい状況でも諦めず、組織エンゲージメントスコアを48から80まで改善。新規事業としてオンラインホワイトボードツール「Strap」がリリースされ、大企業からベンチャーまで多様な企業が導入するまでに成長し、2021年9月に1周年を迎えます。
この連載では、開発現場で起こるあるあるの失敗談を対談形式でお話ししながら、新規プロダクト開発における陥りやすい罠とその善後策をお届けします。
現在のStrapプロダクトマネージャー大竹智史が聞き手となり、当時の様子や想いについて、エンジニアリングマネージャーの西山雄也が語ります。
第1回の今回は、多国籍で優秀なメンバーが揃っていたにも関わらず、PO/CTOの離脱、メンバーの大量離職、化石化していくシステム現場など、過酷な状況に陥ってしまった過程とその失敗から得た学びをお届けします。
技術的負債を刷新、Prottリニューアルプロジェクトの始まり
大竹:まずProttリニューアルプロジェクトの構想が立ち上がった背景について教えてください。
西山:Prottは2014年の正式版リリース以降、国内の多くの企業にご利用いただき、リリースして2~3年後には国内市場だと売上成長が飽和するほどでした。
一方で、技術的負債の蓄積によって、ユーザーからのフィードバックをプロダクトに反映させることもなかなか難しい状況になりつつありました。また、競合ツールが国内で台頭してきたこともあり、さらなる成長のためグローバル展開を見据え、Prottをベースにした新しいプロトタイピングツールを開発しよう、ということがProttのリニューアルプロジェクトのあらましです。

大竹:リニューアルプロジェクト期間中のProduct divはかなり国際色が豊かでしたよね!
西山:そうですね。リニューアルプロジェクトには、海外の有名なデザインファームやソフトウェアデザインファーム出身者をはじめとして職種問わず極めて優秀で、それでいてオープンマインドで情熱的であるという、本当に魅力的で尊敬できるメンバーが続々とジョインしてました。なぜユーザー体験が重要なのかというWhyや妥協なくどこまでも突き詰めて考えるマインド、ユーザーリサーチや分析段階のシンセシス(観察したデータの中からパターンや洞察を見つけ出すこと)など、具体的手法も含めて彼らから学んだことは山のようにあります。
プロジェクトを前進させるために職種を超えて取り組む彼らのひたむきな姿勢は、現在もチームに引き継がれて根付いている文化であり、それを僕らも誇りに思っています。

一方、当時Product divでは3つのプロダクト開発が進んでいましたが、立て続けに2つのプロダクト開発がストップし、それら携わっていたメンバーがチームを離脱し始めたりもしていて、組織状態が少し傾き始めていた時期でした。
ゴールが見えないという暗闇
大竹:そのような状況下で、リニューアルプロジェクト開発中のメンバーの空気感やリリースの周期はどのような様子だったのですか?
西山:いつまでもクローズドベータ版ですらリリースできないという状況が続いていました。まずマイルストーンが半年~1年というスコープにならざるを得ず、ただただ地道にやっていくしかなく、スピード感を持って取り組むことができない状況でした。
大竹:通常だと何か月みたいなところが、年単位だったということですね。
西山:そうですね。リニューアルプロジェクトの難しさとしてリニューアル前の機能はすべて揃っているという期待が当然あります。しかし実際に着手してみると、同じ機能を実装完了するまで相当時間がかかるということが分かってきました。
さらに、当然「リニューアル」なので、既存機能+αの機能を提供しなければならないという状況でした。
社内のクライアントワークで関わっているメンバーが使っている場合もあるので、当然期待されます。実際にふたを開けてみると、既存機能と同等の機能をリニューアル後のProttに実装するのに想定していた期間はあまりにも短く、現実的ではないことが分かってきました。
優秀なチームでさえ挫折する、コミュニケーションのロスという壁
大竹:あれだけ優秀なメンバー、スタープレイヤーがそろったチームでも、いつまでもゴールが見えない状況を打破できなかったんですね。
西山:戦略・戦術レベルで高い壁にぶつかってしまうと、いかに優秀なメンバーが揃っていたとしても軌道修正がなかなか難しいということは、開発している間でもすごく感じていました。
開発の遅れを取り戻す目的で、当初10人程度のチームから最終的に30人弱のチームになっていた時期もありました。人数が増えたことによってスピードが上がることを期待していたのですが、チームメンバー同士の認識齟齬が生じてしまうなど、コミュニケーションのロスが発生してしまい、結局スピードアップは難しかったですね。
大竹:最終的には始まってから一回もリリースはせずとも、ユーザーに触れる環境はあったんですか? それすらもなかったんですか?
西山:検証環境を社内にクローズドベータ版として提供はしていました。ただ既存の機能をまだまだ満たしていない状態ではフィードバックを得られるレベルで使ってもらうということは難しく、結局あまり社内でも使われない状況でした。
大竹:クローズドベータ版は社外ユーザー向けに公開したことはあったのですか?
西山:一部の既存ユーザーに公開したことはあります。Prott User Meetupでこちらで用意した端末に触ってみていただく、ということも試したりしました。ただ、社内向け公開時の反応と同じで、フィードバックはなかなか集まりませんでした。既存のProttと同等の機能が実装されていなかったことや、データを引き継げないという設計で進んでいたことが大きいと思います。
