スクラム開発のボトルネックを、仮説検証によって解決する
ソフトウェア開発の手法のひとつであるスクラムは、チームのメンバーが協力して、共通のゴールを目指していく。スクラム開発のチームの役割には、「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「開発チーム」「ステークホルダー」がある。
プロダクトオーナーは何をどの優先順位で作るかを決定し、プロダクトの価値の最大化を図る製品の総責任者だ。肩書きとしては、プロジェクトマネージャーがこの役割を担当することが多い。
スクラム開発での懸念が、プロダクトオーナーがボトルネックとなること。この問題を解決するのが、市谷氏が提唱する「仮説検証型アジャイル開発」だ。
市谷氏は昨年の「プロダクトマネージャーカンファレンス(pmconf)」でも、多くのことが「不確実」な状態からスタートするプロダクト開発においては、仮説検証を通じて得られた知見をもとに、何をどうつくるべきかの選択肢を段階的に絞り込んでいく戦略が基本的だと指摘している(カンファレンスレポート記事)。
「スクラム開発の文脈だけでは『何を作ったらよいか』をどうやって決めていくか、検証するかが欠落しがち。その基準作りとして仮説検証をやっていき、『想定するユーザはこういう反応だった。だからこう解決できるかもしれない』といった結果が、チームの共通理解になっていく。これが仮説検証型アジャイル開発のたどり着きたいところです」(市谷氏)
市谷聡啓(いちたにとしひろ)氏
株式会社エナジャイル 代表取締役。DevLOVEコミュニティ ファウンダー。プログラマーからキャリアをスタートし、その後プロダクトマネジメントの領域に踏み込む。リーン製品開発やデザイン思考、スクラム開発など、さまざまなノウハウを実践しながらかみ砕き、「仮説検証型アジャイル開発」を提唱。訳書に『リーン開発の現場』(共訳、オーム社)、著著に『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』(共著、翔泳社)がある。
新井氏は、スクラム開発は日本においても浸透しつつあるものの、日本特有の組織構造と合わない部分もあると指摘する。
「海外では、『職に就く』という考えが一般的です。例えば、映画を作るプロジェクトではさまざまな職種の人が集まって進められます。撮影スタッフや脚本家など、スキルが足りなかったら職を失い、他の人が担当するといった世界です。こうした世界であれば、プロダクトへの情熱やこだわりが吸引力になりスクラムがより機能するのですが、『会社に帰属する』考えが強い日本の組織にはうまくフィットしない部分があります。この歪みの中で生まれたのが、市谷さんの言う『仮説検証型』のアプローチではないかと思います」と新井氏は説明を加えた。
新井剛(あらいたけし)氏
株式会社ヴァル研究所 アジャイル・カイゼンアドバイザー、株式会社エナジャイル 取締役COO。CodeZine Academyで3つのアジャイルコースの講師を務める。Javaコンポーネントのプロダクトマネージャー、緊急地震速報アプリケーション開発、「駅すぱあと」のミドルエンジン開発などを経て、現在はアジャイルコーチ、カイゼンコーチ、ファシリテーター、ワークショップ等で組織開発を実施中。ヴァル研究所においては、全社150名を見るスクラムマスターのような役割を担っている。『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』(翔泳社)の共著者。